スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
EDIT  |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑

2008.07/19(Sat)

アニバーサリー企画第26弾! (chocoさん作品ⅩⅤ) 

           2007.12~?〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画





<スカボロフェア>



「直也君。退屈?」
 麻理子の声で直也は瞬きした。
「すみません。ぼんやりしちゃって」
 彼女が微笑んでいるので直也は安堵して謝罪する。
 いつもは御厨が行っている心理テストを今日は麻理子が担当していた。彼女が自分から御厨に申し出たらしい。
「いいの。私の我儘に付き合ってもらってるようなものだから」
 いつ見ても綺麗な人だ。
「それに本当に退屈。少し休憩しましょう」
 ロールシャッハ、空間認識、簡単な設問に答え、質問者がレポート用紙の上でボールペンのインクを擦り減らすのを眺める。直也の前で幼い頃から幾度となく繰り返されてきた光景だ。
 相手が『始める』と言い出すより先に欠伸が出てしまったとしても責める者はいないだろう。
「アールグレイのアイスティを作ったの。直也君、好きでしょう?」
 席を立つ麻理子を追って直也も立ち上がった。
「手伝います」
「ありがとう。でも、大丈夫かしら?私に触れてしまうかもしれないわよ」
「たぶん」
 隣を歩く直也を麻理子は眺める。身長は同じくらいだが、体格は女の麻理子とは比べ物にならない。華奢に見えても男の子なんだな、と麻理子は思った。
「本当?私はすごく悪いことを考えているかもしれない」
「そうなんですか?」
 直也が目を丸くする。そこには、楽しんでいるような色もあって食えない感じだ。
「私を買い被らないで。普通の凡庸な女なの」
 きっと悪い男になるに違いない。我知らず、女の心を引き裂くだろう。
「そうは見えません」
「直也君は同年代の女の子を知らないものね。私なんかでも興味の対象になり得るのかな?」
「子供扱い、ですか?」
 不満そうな顔だ。こんな透明な魂の中にも自意識は存在する。麻理子は満足して微笑んだ。
「いいえ、光栄だってこと。もしかしたら、私は直也君のために『麻のシャツ』を縫うかもしれない」
 返事がないので麻理子は直也を伺う。驚いたことに直也は麻理子をじっと見ていた。
「その話どうして知ってるんですか?兄さんに聞いたんですか?」
 無感動な声でそう言った。

 眠れない夜に直也はお伽話をせがんだが、あいにく御厨は子供に読ませるような本を所蔵していなかった。直人が見つけてきたのは、マザーグースである。
「パセリ、セージ、ローズマリーにタイム」
 この英国のバラッドがどれほど繰り返されたか直也は覚えていない。
 単調な直人の声と同じ文句が何度も現れるのを聞いているうちに自然と瞼が重くなった。
「パセリ、セージ、ローズマリー」
 初めは本の最初から順に読んでくれていたが、この詩が最も就寝に効果がある。直人はすぐに他の詩を詠じるのを止めた。
「タイム」
 詩の意味が分からぬうちから直也は悟っていた。これは、恋の詩ではないか。
 しかし、なぜ恋人を無理難題で悩ますのだろうか。
「そしたら、きみは、真のぼくの恋人」
 直也にはどうしても理解できなかった。

「かぐや姫みたいですよね。絶対にできないことを頼むなんて」
 給仕してくれる直也は先刻のことなど忘れたように振舞った。
「そうね」
 直也は容姿に優れている。こうして世話を焼かれるのは楽しいが、油断は禁物だと思い知らされていた。
「でも、知らなかった。有名な詩だったんですね」
「ええ。反戦歌っていうのかな。ベトナム戦争の」
 詩の原型は直也の知っているマザーグースである。
「恋愛に関する詩かと思ってた」
「マザーグースは口伝ですもの。解釈は何通りあってもいい」
「兄さんには、ただの言葉遊びだって言われました。韻を踏むだけで意味なんかないって」
 麻理子は吹き出した。
「しりとりみたいな?直人らしいわね」
 これほど示唆に富んで謎に満ちた詩をそんなふうに断ずるとは、なんと無粋な男だろうか。まったくもって困った人だ。
「麻理子さんはどう思いますか?」
「私?」
 直也は麻理子と向かい合わせに腰かけると頷いた。
「課題を克服すれば夢が叶う。お伽話の定番ね。でも、そういう解釈が成り立つとしたら試す価値はあるかな」
「針も使わずにシャツを縫う?」
「裁縫は元から得意じゃないの。ちょうどいいわ」
 アイスティのグラスに口をつけると香り付けのハーブがむせ返るようだ。麻理子は目を閉じた。
「直也君は?」
「わかりません。『海水と砂浜の間』なんてどこにもないから」
 直也は窓の外へ目を向けた。なにを見ているのだろう。だが、すぐに気が付いた。
 麻理子がいつも追っている相手に違いない。自分もこんな顔をしているのだろうか。

「ハリィ」
 犬のハリィは眠っている。この頃は以前のように走り回らなくなった。
 一日の大半を寝て過ごしている。
「もし、ここを出られたらどこに行きたい?」
 ハリィは老いたのだった。人間の何倍もの速さで死に至ろうとしていた。今すぐにではないが、遠くない未来にそうなるだろう。
「ぼくは海を見てみたい。海の水は塩辛いんだ。それに、ずっと遠くまで続いてる。水平線までずっと」
 頭を撫でてやるとハリィは唸った。どんな夢を見ているのか。
「だから、海の水を舐めたら駄目だよ」
 陽がハリィの顔に当たっている。睡眠の邪魔になってはと直也は窓に近付いた。
 カーテンを引きかけて、外に目を向ける。
「『一エーカー』の土地か」
 麻理子と直人が寄り添って歩いていた。彼女の美しさは直也を前にしている時の比ではない。
「一エーカーもの土地を羊の角で耕す?」
 日差しの中で輝いているようだ。
「たった一粒の胡椒でそのすべてに種を蒔く?」
 麻理子ならやるだろう。針も使わず縫い目もないシャツを作り、涸れた井戸で洗うだろう。
「やってみてもいいよ。でも、場所がわからないんだ」
 直也は海を見たことさえないのだ。『海水と砂浜の間』にあるというその土地をどうやって探せばいいのだろう。
「最初から無理なんだ」
道案内を頼もうにも、彼の忠実な従卒は死にかけていた。
「だって、ぼくも、兄さんもどこにも行けない。ここから出られないんだよ」
 なぜ涙が出てこないのだろう。少しは気が紛れるはずだ。
 直也は顔をしかめてカーテンを閉めた。





END

スポンサーサイト
EDIT  |  13:47 |  二次創作  | CM(3) | Top↑

Comment

●chocoさんの「あとがき」ですv

【あとがき】
*本文同様、たいしたことを書いてないのでスキップをテラ推奨です。
最後までご覧いただきありがとうございます。感謝です。(涙)
たぶん、直也は麻理子とこんなにハキハキ話せないのではないかと思いますが、直人を背景として使う事が決定事項だったため勝手に変更しました。
時系列としましては、岬老人が亡くなる数年前くらいで直也は十代後半でお願いします。じゃないと麻理子が年齢的に気の毒だ。

『スカボロフェア』はメジャーな曲ですので説明は不要かと思いますが、マザーグース版につきましても簡単に検索できると思います。興味をお持ちでしたらグーグル先生でお願いします。
『スカボロフェア』か『スカボローフェア』でいっぱい出てくると思います。確か、YouTubeで曲も聞けたかも。丸投げで申し訳ありません。

あと、最後になりますが拍手してくださるとすごく喜びます。(我儘)もちろん強制とかじゃないですし、お気に召したヤツだけでいいです。
クレームはチキンなのでお手柔らかにお願いします。
siko | 2008.07.19(土) 13:50 | URL | コメント編集

●UP&コメント遅れてしまってスミマセン!

chocoさん、こんにちは!
タイトルにも書きましたが、UPが遅れてしまって、すみません、
しかも感想コメントが更に遅くなってしまい(殴)
や、UP作業をしている時に読ませていただいて、ちょっと胸キュン(笑)だったのですが、
落ち着いて感想を書いてる余裕が無くてそそくさと作業のみで終わってしまいました。
改めて本日じっくり読みまして、そうか、ハリィも年寄りになっちゃったのね、
って、そんなところでじ~んとしてどうする!
いやいや、その、このS&Gの歌はホント私も大好きなので、直也が(麻理子もだけど)それを口ずさんでる場面を想像するのはちょっと嬉しかったですv
「枯れた井戸」のあたりでは飯田さんのNH最新刊「誘発者」の兄弟登場シーンを思い起こして「実はこの無粋な男がアジアで枯れ井戸を甦らせたんだわ」などとしみじみしてみたり…
スミマセン、相変わらずズレまくりな感想だわ、さては暑さで脳みそ蒸発しちゃったか(苦)
や、でもこれはホント原作準拠SSとしてはとても上等なお話ですよね、
最後の方、麻理子のテンションとは対照的な直也の静かな哀しみがしみ通ってくるようで、やっぱり今回も胸がきゅ~んでした。
(毎度、言葉足らずな感想でごめんなさいです)

や~、しかし今年も猛暑の夏ですねえ、chocoさんもどうぞお体にはくれぐれも気をつけてお過ごし下さいませ。
siko | 2008.07.21(月) 18:03 | URL | コメント編集

●UPありがとうございました。

こちらこそ遅くてすみません!
夏バテてました。アイスの箱買いのせいだと思います。(涙)
それに予告と全然違うものを送りつけて申し訳ありませんでした。
ご感想ありがとうございました。
お好きな歌のイメージが壊れてないといいんですが。(汗)

『NIGHIHEAD』の最新刊は読んでないですが、井戸を甦らすなんてやっぱり二人の方向性は救世主なんスかね。
子供の時に骨折で通った整形外科で読んだ『超人ロック』を思い出しました。
ものすごく古いマンガだと思うので補足します。
この漫画の主人公は超能力者で直人と直也の力を合わせて×100でも追いつかないくらい力があります。その上、不老不死。
話の最初の方に出てくる宇宙警察(?)の熱血刑事が警視総監のおじさんになってもまったく外見が変わりません。
最終的に力を悪用されないために人里離れたところで隠れて暮らしたりするんですが、精神的にも人から離れます。最初あった葛藤がなくなって聖人みたいになる。確か。
あんなふうに完璧になっちゃうとつまんないと思うんです。(マンガ自体は面白いです)

たぶんアーク事件の時に直人は『望んでも普通にはなれない自分』を肯定して受け入れたと解釈してます。
自分というものを認めたんだから力が暴発するなんてことはこれからはなくなるだろうし、働いたりもできると思います。キャバクラのボーイとか。(え?)
ええと、なにが言いたいのか意味不明ですが、つまり二人には人の中に入っていってもらいたいってことなんスよ。超能力は自分のためとか人助けしたいとか思ったら使ったらいいじゃないですか。
みんな結構好き勝手に生きてるわけで別に救わなくてもいいんじゃないかな。
そんないい加減なスタンスじゃ駄目か。うーん。
あと、個人的にナジちゃんだ。彼女を日本に呼ぼうよ。三人で楽しいぞ。
なんか『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』みたいじゃん。(違)

ちなみにこの整形外科には『のらくろ』もありまして私の読書傾向が決定付けられたと言えましょう。
って、これじゃ、日記だろ。(汗)
choco | 2008.07.27(日) 11:22 | URL | コメント編集

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示
 
 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。