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2007.12/29(Sat)

アニバーサリー企画 第三弾! (saeko様作品Ⅰ) 



<この世の果て>








寒いね。
ああ、寒いな。



ひときわ底冷えのする、12月24日の夜。
兄弟ふたり、部屋にいても何をするでもない。
退屈をもてあました直也は、立ち上がって窓に近づいた。
息のかかったガラス窓が、たちまち白く曇って視界をぼかす。
外には見飽きた隣のビルの壁しかない。そこに景色というほどのものはなかった
けれど。
それでも直也はじれったくて、きゅ、という音をさせて指で窓を拭った。
透明になったあとから見えるのはやっぱり、代わり映えしない暗灰色の壁。
覗き込むようにして狭い空を見上げても、夜だというのに星も見えない。



そういえばクリスマスイブなんだよね。
俺たちには関係ない。



素っ気ない直人の返事に、直也は僅かに落胆する。
別に、賑わう街へと繰り出したかったわけじゃないけれど。
やっぱりどこか寂しいと思う。
馬鹿騒ぎばかりの下らないテレビは消してしまった。
ここにある本もみんな、読んでしまった。
ほかには部屋に退屈を紛らわせるものは何もない。
いつしか会話さえなくなって、聞こえるものは都会の喧騒だけ。



そのとき直也は、窓の外に何か白いものがちらつくのを見た。
気のせいかと思う間もなく、それは次第に数を増やしていく。



寒いと思ったら、雪だよ。兄さん。



返事はなかった。
けれど静かに、背中に近づく体温がある。
ふいに直也は肩を抱かれた。
長身の体を直也にのしかかるようにしながら、その肩越しに直人が窓に触れるほ
ど顔を寄せた。



ねえ、雪だよね。
ああ、雪だな。



つめたい硝子窓の向こう。
白い雪は次第にその強さを増していく。





ときおり、直也は夢に見ることがある


見渡す限りどこまでも真っ白な雪の平原。
生あるものの染みひとつない、虚無にも似た永久凍土の地。
そこで兄とふたり、抱き合ったままで命の終わりを迎える夢だ。
世界も、変革も、運命も。
どんなものも手の届かない、ふたりだけの清らかな場所。
徐々に呼吸と体温を失っていく彼らの上に、穢れない雪が途切れることなく降り
頻り。
すべてを覆い、すべてを埋め。
やがては何も見えなくなる。


そんな結末を。



―――― ぼくは、赦されたいとは思わない。






積もりそうだな。
積もるといいな。


しんしんと、ただ音もなく。
眠るふたりの上に降り積もる雪。

それはきっと、温かいだろう。
肩に感じるこの手の温もりと同じくらいに。











                             
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2007.12/25(Tue)

アニバーサリー企画 第二弾!(choco様作品Ⅱ) 

2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画



<聖なる歌の行方>




 クリスマスの朝、ぼくと兄さんはプレゼント交換した。
 子供でもない兄弟がなんだと思うかもしれないけど、両親が早くに亡くなって
 から家族でぼくにプレゼントをくれるのは兄さんだけになってしまった。

 小学校の低学年くらいまでは似顔絵や工作をあげてたわけだし、兄さんとは
 年齢が 離れていて学生の頃からずっと両親の代理をしてくれてる。
 だから、ぼくにとっては日頃の感謝の意味もあるんだ。

「うわ!高価そう。いいの?」

 包みを解いて驚いた。
 有名メーカーの腕時計で、クラシカルな文字盤が特徴的で格好いい。

「ああ。そろそろきちんとしたものを持たせても大丈夫だろう」

 ぼくの方はトランプの柄のカフスボタンだ。
 軍服につける記章か国旗みたいにデザインされてるんだ。

「こんな洒落たものつける機会がないな」

 確かに兄さんがカフスをつけるようなドレスシャツを着るのは親戚の結婚式
 くらいだ。

「だったら、今日つけてくれない?教会だったら正装でもおかしくないよね」

 本当は翔子と行くつもりだったんだけど、急にお祖母さんの具合が悪くなって
 来れなくなったんだ。
 一人で行っても仕方ないし、兄さんも婚約者の麻理子さんが海外出張中で
 暇だから二人で出かける事にした。

「ゴスペルか?」

 兄さんはまだカフスを眺めていた。

「うん、そう。練習を見せてもらったけどすごく綺麗な声だよ」
「そうか。しかし、支度が面倒だな」

 顔をしかめている。
 兄さんは背は高いし、ちゃんとすれば見栄えがするのになんでいつも嫌がるん
 だろう。

「いいじゃない。もう時間がないよ。早く!」

 ぼくは兄さんの背中を押して、リビングから追い出した。



 二ポーズある内、痛みの少ない方の制服を着て戻ってくると兄さんはもう
 ソファに腰かけていた。

「遅かったな」

 兄さんが早過ぎると思う。

「タイが曲がってる」

 兄さんが立ち上がって、制服のタイに触れる。

「直してやるから後ろ向け」

 自分が結ぶのと同じ方向じゃないと結べないらしい。
 兄さんの腕が回ってきて器用に結びを作るのをぼくは不思議な想いで見ていた。

「あんまりキチッとしないでよ」
「わかってる」

 シャツの袖に赤いダイヤや黒いスペードを見つけてぼくは嬉しくなる。
 兄さんはシングルのダークスーツに色物のシャツを着ていた。
 ネクタイも渋い色で、カフスだけが明るく見える。

「このシャツ。初めて見るけど、シルク?」
「さあな。麻理子がくれたんだ」
「そう」

 ぼくは、なぜか体が冷える気がした。
 麻理子さんは、すごくいい人だ。
 美人で、頭が良くて、ぼくにも優しいし、なにより兄さんの事を本当に想って
 くれてる。

「鏡を見てくる」

 兄さんの腕を逃れて、ぼくは洗面所に駆け込んだ。

「変な顔」

 鏡の中の自分を睨みつける。
 兄さんは、ぼくが母さんに似ているというけど、ぼくの記憶の中の母さんの
 顔はおぼろげでぼんやりしている。
 家族といえば、ぼくにとって兄さんだけがリアルで、その他はまるで夢の中の
 出来事みたいだ。

「母さんは天国で父さんとずっと一緒なんだよね。でも、ぼくは」

 兄さんが結ぶとタイはいつも真直ぐに納まる。
 ぼくが結ぶと必ず右に傾いでしまう。
 どうしてだろう。

「直也」

 兄さんの声に驚いてぼくは飛び上がりそうになった。

「顔色が悪いな。具合が良くないなら、出掛けるのはよそう」
「平気だよ」

 これ以上、家の中で自分と向き合うなんてとても耐えられない。
 出掛けたほうがまだマシだ。

「ええ!もうこんな時間。急がないと」

 腕時計を覗いてぼくは玄関に急いだ。

「弛くないか?」

 慌てて靴を履いてると兄さんに左の手首を押さえられる。
 ぼくが焦っているのがわかっているはずなのに殊更ゆっくりと腕時計のバンドを
 撫でている。

「少し手首の方が細いな。このくらいは大丈夫だろうが、不具合があったら言って
 くれ。直させる」
「そんなのどうでもいいよ。早くしないと遅れちゃう!」

 兄さんは機嫌を損ねたみたいだったけど、今はそれどころじゃない。









 天井や壁に象嵌されたステンドグラスがそこら中に色とりどりの影を落として
 いる。

「良かった。まだ始まってない」

 ぼくも兄さんもクリスチャンってわけじゃない。だけど、ぼくは教会が大好きだ。

「ああ」

 高い天井や広々とした空間、そこにいる人たちから伝わってくる雰囲気に酔っ
 払ってしまうような感じなんだ。
 座席は半ば以上埋まっている。
 ぼくと兄さんは座席の間を抜けてなるべく前の方に席を取った。

「思ったより人が入るんだな」

 腰を下ろしながら、兄さんが呟く。
 手が無意識にネクタイを弛めにかかるのをぼくは慌てて止めた。

「駄目だよ。ここは教会なんだから。ちゃんとしてて」
「堅苦しいのは疲れる」

 早くもうんざりしているらしい。
 兄さんはもともと社交的ではない。
 人ごみも嫌いだし、着飾るのも好きじゃない。
 ぼくも同じようなものだけど、兄さんはぼくがだらしない服装をしたり、
 いい加減な態度をとるのを許してくれない。
 すごく勝手なんだ。

「我慢して」

 聖歌隊の演奏が始まる寸前に斜め前の席の女の人が兄さんのほうを振り返って
 何か言っているのが見える。
 いつもそうだ。
 兄さんは、いつも女の人の注目を集めている。
 でも、当の本人はなんにもわかってない。無視してるんじゃなくて気付いても
 いないんだ。
 ぼくは、ため息を吐いた。

「どうした。疲れてるんじゃないか?」
「平気だよ」

 テンポの速いブレイズが流れ始めるとぼくは他の事は忘れてしまった。
 驚いたのは、中盤になってからだ。
 女の子が進み出てきてソロをやったんだけど、その声量がすごいんだ。

 『神に出会った驚きが私の全てを変えた』

 彼女は英語でそう歌い上げた。
 すごく綺麗な発音で二世か帰国子女なのかもしれない。
 全ての演奏が終わってもぼくは興奮が冷め遣らず、椅子から立てないほど
 だった。

「霧原じゃないか?」

 ぼくに向かってなにか言いかけていた兄さんは声の主を見て顔をしかめた。

「まさか俺を忘れてないよな」
「ああ。忘れられるなら悪魔に魂だって売り渡すがな」
「おいおい。ここは教会だぞ」

 相手は兄さんと同じくらい長身の男の人で、赤いシャツに派手な光沢のある
 背広を無理なく着こなしていた。

「誰?」
「知らなくていい」

 兄さんはぼくの肩を抱いて押しやる。
 ぼくを引きずってでもこの場を後にしたいらしい。

「おじさん。私どうだった?」

 走り寄ってきた女の子を見てぼくは声を上げそうになった。

「良かったよ、早起枝。おまえには驚かされた。あんな才能があったとはな」

 さっきソロをやった女の子だったんだ。
 早起枝さんは褒められて嬉しそうに頬を染める。

「あ、あの!」

 ぼくは思わず声を出していた。
 早起枝さんは訝しげにぼくを見ている。

「アメージンググレイスを歌ってたよね。すごく上手くてビックリした」
「ありがとう」

 小さな声で答えてくれる。
 大人しそうな子で、先刻の朗々とした歌声の持ち主とはとても思えない。

「兄さん」

 ぼくは肩を掴んだままの兄さんに抗議した。
 女の子の前で格好がつかない。
 兄さんは渋々ぼくの肩から手を離した。

「練習には参加してなかったよね?聖歌隊の人?」
「私」

 口が重たい様子で普段だったら気まずいと思うだろうけど、早起枝さんとは
 何か通じ合うものが感じられて平気で話せた。

「まず、自己紹介をしてもらいたいな。これでも義理の兄から姪の面倒を
 頼まれてるんだ」

 兄さんの知り合いらしい男の人から注意される。

「あ、すみません。ぼくは、霧原直也といいます」
「霧原直也君か。で、霧原とはどういう関係だ?」

 兄さんは苦虫を噛み潰したような顔だ。

「俺の弟だ」
「へえ?全然似てないな。まあ、いいか。俺もついでに名乗らせてもらおう」

 男の人は、三雲玄吾と名乗った。
 兄さんの大学に客員教授としてイギリスから招かれているんだそうだ。

「早起枝も挨拶しなさい」
「天本早起枝です」

 頭を下げられて、ぼくも慌てて礼を返す。

「しかし、二人とも霧原じゃ呼びにくいな。霧原のことは下の名前で呼ぶ事に
 するか」
「冗談は顔だけにしろ」
「じゃあ、仕方ない。きみは直也君でいいかな?」

 兄さんの態度をまるで気にしない様子でぼくに話しかける。

「あ、はい」

 周りの人はぼくの事を名前で呼ぶから構わないと思って、そう答えた。

「直也!こんなヤツと口を利くんじゃない!」
「兄さん。失礼だよ」
「おまえはなんにもわかってない。もう帰るぞ」

 今度は、どんなに抗議してもぼくの腕を掴んで離さない。
 ぼくは仕方なく早起枝さんの方に振り返った。
 驚いたことに早起枝さんは、ぼくをじっと見ていた。
 目が合って、ぼくはなぜだかドキドキする。
 でも、叔父の三雲さんに何か言われて早起枝さんはすぐに他所を向いてしまう。
 二人の親しそうな姿に苛々した。どうしてこんな気持ちになるのか訳が
 わからない。
 確かなのは、会ったばかりの三雲さんの事が急に嫌いになったということ
 だけだった。








                                       END











おまけ <私の神様>




「早起枝。直也君の事が気になるのか?」
「そんな、私。それに、私なんか駄目」

 早起枝は俯いた。

「そんな事はない。おまえは他の人間とは違う。特別な魅力がある。
 その証拠に向こうから声をかけてきただろう」
「でも」
「おまえを好きになりかけてる」

 早起枝は驚いて顔を上げる。

「欲しいものがあったら、手を伸ばして掴み取ればいい。簡単なことだ」
「もう付き合ってる人とかいるかも」
「関係ない。自分が心地いいことだけを考えればいいんだ。早起枝には、
 その権利がある」
「権利?私に」

 三雲は早起枝の耳元で囁いた。
「ああ。直也君との未来を手にする権利だ。誰にも遠慮する必要はない。
 もし、障害があっても払い除ければいい」

 早起枝は、間近にある叔父の顔を眺める。

「俺がいつでも傍にいて助けてやる。早起枝はなにも心配しなくていいんだ」
「はい」

 早起枝の神様は地上で教えを垂れていた。









                                         END
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2007.12/24(Mon)

お詫び 

長らくご無沙汰しておりました。
パタです。数ヶ月も家を空けていたのでは、ゆうれい管理人も同然ですね。
なぜかくも長き不在に陥ったかをまずご説明します。
別板『さすらいの煩悩配達人』にも書きましたが、
こちらでも説明させていただきますね。

実はですね、当ブログのお笑い小説「裏パタリロ・・」を進めるにあたり、
ジュネーブ・ウィーン・ローマ等ヨーロッパ取材旅行をしていたのです。
この大嘘つきめが
貧乏な腐女子のお前に、んなことできる訳ないやろォォォォォ~

失礼しました。まじめにご説明します。
理由①:夫が自分でパソコンを作ったのはいいが、3台とも相性が頗る悪く、
     しばらくパソコンを使える環境になかった。
理由②:メールしながら自転車に乗っていた大学生がよろけて来た際、
     次男をかばい右手甲に全治3ヶ月の怪我を負った(手の甲の骨3本骨折)
理由③:怪我によるストレスが原因で、同じく右手甲~手首が帯状疱疹になった。
     医者に診てもらう前に素人の浅はかさで患部を冷やしたのが悪く、
     だいぶ後遺症が残ってしまった。

他の部位は元気なのに、マウスを操作するのに必要な右手だけが不自由で、
骨折より帯状疱疹の強烈な痛みが辛うございましたわ。
当ブログのゲストの皆様:saekoさん・シシーさんはじめ、
&大事なパートナー:sikoさんに不義理をしてしまい、
本当に申し訳ございませんでした
しばらく留守にしている間に、
おお、chocoさんという新たなゲスト様がいらっしゃってますわv

chocoさん】はじめまして。私がもう一人の管理人:パタと申します。
数あるブログの中から、当ブログにお越し下さり感謝の極みでございます。
既に両板でご活躍のご様子。拍手拍手
遅ればせながら、何卒宜しくお願い申し上げます。

ご心配をおかけした皆様への一番の償いは、
私がブログに記事やコメントを書くことだと思います。
sikoさんがきちんと進めて下さったおかげで、
素敵な二次創作作品が満載(●^0^●)
私も早く仲間に入れるよう鋭意努力しますので、
見捨てないでおくんなましーーーーッ!!!
EDIT  |  18:50 |  お知らせ  | CM(0) | Top↑

2007.12/16(Sun)

アニバーサリー企画 第一弾!(choco様作品Ⅰ) 

 2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画


choco様から企画作品第一弾が届きました
クリスマスの霧原兄弟、意外とゲームに強い兄さん、でも年の離れた弟の言動に
いちいち振り回され、胸の内で文句つけたりしてるのが何だか可愛かったり
設定は映画[LOFT」で、兄は准教授。
何でも合理的に考えたがる学者の性格がよく出ていて、そこがまた可笑しかったり
それでは、どうぞ冒頭の<注意書き>からご覧下さいませ。




<注意書き>
この話の設定です。読んでいただかないと意味不明に拍車がかかります。たぶん。(良い子はこんなのナシでもわかるように書こうね。約束だよ) ←アンパンマン?


霧原直人
 本編と同じく27歳位。考古学の准教授。(黒沢清監督の「LOFT」から)
 心理学博士号持ちの彼女あり。
 現在、思春期の弟の取り扱いに奮闘中。

霧原直也
 思春期真只中の13歳。
 学校の成績、彼女との交際、年の離れた兄との距離感に悩む日々。

友枝麻理子
 直人の恋人。
 直人の同僚で講師。
 なにかと過剰な直人の弟への庇護欲には諦観を禁じえない。

双海翔子
 直也の彼女兼クラスメイト。
 不思議ちゃん一歩手前の頼りになる女子中学生。
 成績は直也より上。

御厨恭二郎
 直人と同じ大学の考古学の教授。
 霧原兄弟の両親と面識があり、弁護士(確かこんな人いましたよね?)とともに
両親が急死した霧原兄弟の後見役。
 尊大な面があり、直人とは折り合いが悪い。

※今回は残念ながら、女性陣は間接出演。御厨に至っては設定のみ。(というか
次回とかないから)









    <スノーホワイト>







「雪になるかもしれないんだって。降るといいね」

 液晶画面の中でサンタクロースの扮装をしたお天気キャスターが今日はこの冬
 一番の寒さになると告げていた。
 震えた声で野外ロケをさせられているのを見せられては、せっかくのミニスカートも
 気の毒になる。

「そうか?雪かきが大変だぞ」
「あのさ。今日はクリスマスイブなんだけど。知ってた?」
「当たり前だ。だから、ケーキを買ってやっただろう」

 しかめ面の直也を俺は不思議な想いで眺める。
 いつもは栄養が偏るから滅多にとらせないケータリングもクリスマス特措で直也
 の好きにさせた。
 なにが不満なのか。

「兄さんって全然デリカシーがないよね。だから、麻理子さん。戻ってこないん
 じゃない?」

 海外研修で渡米している同僚の名を出されて俺は戸惑った。

「馬鹿なことを言うな。麻理子は帰国子女で向こうに知り合いが多い。
 研修のついでに有給消化するつもりだって言ってたぞ」

 直也は胡乱な顔で俺を眺めて、ため息を吐く。

「兄さんと麻理子さんって婚約してるんだよね。なのに、クリスマスを一緒に
 過ごさないなんて少しは変だと思わないの?」
「別に。駄目か?」
「駄目だよ!兄さんって本当に常識がないよね」

 断言する直也の顔を見ながら俺は考えた。

「それにしては、おまえも暇そうだな。自慢の彼女はどうした?」

 直也は気まずそうに口を開く。

「し、翔子はお祖母さんの具合が悪くて!お母さんと里帰りしてるんだよ。
 ちゃんとした理由があるから仕方ないの!わかった?」

 自分でも納得していないことを主張するときの癖で早口になっていた。

「わかった」
「本当に?」
「本当だ」

 直也は疑わしげに俺を見ていた。

「だったら、いいけど。兄さんはビールだよね。僕も少し飲んでいい?」
「駄目だ。おまえは未成年だろう」
「ええ!いいじゃない。ちょっとだよ」

 普段は自主独立の問題だとかでツンケンしている直也だが、こんな時だけは
 都合よく甘えてくる。
 勝手なものだ。

「背が伸びなくなるぞ」
「言わないでよ。気にしてるんだから」

 直也は俺をひと睨みしてキッチンに消える。
 俺は、テーブルの上にあるケータリングの包みを解いた。
 中身は料理の他に大量の紙ナプキンと使い捨て食器の山である。
 ゴミの分別をするのが面倒だ。

「はい」

 半ダースパックになったビールとグラス、食器の類が載ったトレイを直也が
 運んでくる。
 ジンジャーエールが乗っているのを見て了解し、テーブルの上に置き場所を
 作ってやった。

「ねえ。本当に駄目?」
「駄目だ」

 直也は諦めたのか俺の隣に腰を下ろすと慣れた様子で食器を配分し始める。

「あ、そうだ。ゲームする?」

 食事はインスタントでも平気な癖にプラスチックのフォークや紙皿を嫌がる。
 変なところで神経質だ。

「格ゲーか?」
「ううん。シューティング。同じクラスの子に借りたヤツなんだけど」

 ゲーム画面に切り替えて、本体の電源を入れる。
 ソフトは入れっぱなしになっていたらしく、すぐさま起動がかかった。

「本当はシューティングじゃないんだけどクリアしたからボーナスでできるんだ。
 高得点でクリアしないとできないんだよ」

 コントローラーを渡される。
 直也は得意そうだ。

「これが照準。ロックして、こっちがトリガー。わかった?」
「ああ」
「じゃあ、始めるよ」

 やってみて驚いたが、ゾンビという化物を退治するゲームなのである。
 背景は病院か研究所のようだ。

「本当は翔子とやろうと思ってたんだ」

 彼女とクリスマスイブにゾンビを殺戮する。
 どっちが無神経なのかと直也の良識を疑う。
 しかし、キリストの聖誕祭には血生臭い面があるのも事実だ。
 三博士から「ユダヤの王」の誕生を知らされたヘロデ王は、神の子の出現を
 恐れて国中の赤子を殺すように命じた。
 自分より権力を持つ可能性のある存在を排除するためである。
 ひどい話だが、王位を守るために妻と息子を死に追いやった男だ。
 他人の子供の命を奪うのに何ら呵責を感じなかったに違いない。

「やっぱり兄さんってこういうの上手いよね。目がいいのかな?動体視力?」
「さあな」

 照準判定は甘かった。
 初心者の俺のために簡易モードなのかも知れない。

「交替」

 直也はコントローラーを手に真剣な顔で画面を見入っている。
 表情の消えた弟は母方の血が極めて濃いと改めて思い知らされる顔立ちだ。

「ここ。いつも失敗するんだ。視界が悪過ぎると思うんだけど」

 ゾンビは人型から犬に替わっていた。
 標的が小さくなった上に動きも素早い。

「狙って撃つだけだ。タイミングの問題だろう」
「黙ってて!」

 ゾンビ犬は狂犬病を患っているように足をふらつかせる。
 だが、瞬発力はあり、数匹で連動して襲いかかってくるのだ。

「弾丸ゲット」

 多少のミスはあったものの障害をクリアし、画面に弾薬が補給された由が示される。

「次はボスだよ。時間内だと武器がもらえるんだ。やってみて」
「俺か?」
「さっきスゴかったからコツを見たいんだ。翔子とやる時の参考にするから」

 コントローラーを渡される。
 一時停止を解除すると同時に上からゴリラと爬虫類を合体させたような怪物が
 降下してきた。

「三十秒以内だったらグレネード付マシンガンだよ。尻尾が弱点」

 画面の右端にタイマーが現れた。
 怪物の攻撃が始まる。
 とりあえず、弾薬はある。
 最初は流し撃ちをして様子を見た。

「尻尾に当たったら動きが止まるからね」
「わかった」

 背後に回りこむにはゲーム上の制約がある。
 仕方なく怪物の攻撃を避けながら、時折、現れる尾を狙った。
 後は、動きが止まったところをダメージの高い首と頭を連射し、これを何回か
 繰り返して倒す。

「嘘。なんで?どうやったの?」

 条件のクリアと新しい武器を獲得した告知メッセージが現れる。

「動きを止めて、首と頭を撃った」
「そうじゃなくてさ。急に出てくるよね、尻尾。なのに、なんで?」

 「ご用命」を果たしたというのに直也は不満そうだ。

「出てきたら、撃てばいい」
「全然、参考にならないんだけど」

 納得がいかないらしい。

「そんなことより、おまえ」

 俺は直也の手元を見咎めてビールの缶を取り上げた。

「ちょっと舐めただけ。こんな苦いものよく飲めるね。信じられない」
「子供には向かない飲み物なんだ」
「なにそれ。もうゲーム止める。兄さんとやってもつまんない。翔子だったら」

 なぜか俺は翔子という少女が苦手で、直也が彼女の名を口にするのも気に入らない。
 思わず席を立った。

「悪かったな。勝手にしろ」

 驚いている直也の表情の中に怯えが走るのを見て俺は後悔した。
 すぐに腹を立てるのは俺の悪い性分だ。
 両親は既に鬼籍で、俺は論文の準備に忙しい。
 まだ中学生の直也に寂しい思いをさせているのだから、たまに顔を合わせた時くらい
 弟を全面的に受け入れてやるべきなのだ。
 たとえ直也の態度が理不尽だったとしても、生意気な盛りで仕方がない。
 それになにより直也は、今では俺のたった一人の肉親だ。仲違いなど不本意極まる。

「兄さん、あの」
「心配するな。すぐ戻る」

 直也は不安そうに頷いた。
 両親が事故死した直後に見せたような幼い顔だ。
 あの頃は、いつも俺の姿を探して追いかけてきて離れようとしなかった。
 つい昨日の事のように思えるが、実際には十年にも及ぶ時が流れている。
 俺は少し笑ってみせた。
 直也はようやく安心したらしくゲーム画面を地上波に切り替えていた。





 キッチンから戻ってきた俺は直也の姿を探してリビングを見回した。

「兄さん。こっち」

 直也は庭に面したアルミサッシを開けて身を乗り出している。

「何をしてるんだ?」

 近付くと疑問は解けた。

「天気予報当たったね」

 直也の笑顔の向こうで、四角に切り取られた空間を雪が埋め尽くそうとしている。
 見慣れた風景は一変していた。

「寒くないのか?」

 庭に伸ばされた直也の腕の上に雪が積もり始めている。
 見ているほうが身震いしそうだ。

「大丈夫だよ」
「とにかく窓を閉めろ。雪を見るのに問題ないだろう」
「ちょっと待って。もう少し」

 窓枠にかけた俺の腕を直也は空いている左手で押さえる。

「直也」

 触れた指先はとても冷たかった。

「おまえはすぐに具合が悪くなるから心配なんだ。わからないか?」
「うん、ごめん。でも、今日はもう一回怒ったんだから、怖い顔したら駄目だよ」

 直也が本当に子供だった時分に俺の短気を咎めて、怒っていいのは一日一回だけと
 約束させられた。
 大昔に交わした事をよく覚えているものである。

「直也が悪いんだろう」
「そうだね」

 最近には珍しく、直也は素直に俺の言い分を認めた。
 俺はどんな顔をしていいのかわからず、顔を他所へ向ける。

「これ見て」

 雪に覆われた直也の掌で雪の結晶が輝いていた。

「綺麗だね」

 それは非常に整った六角形の板状結晶で俺は目を奪われた。

「ああ。そうだな」

 結晶は見る間に溶けて消えていく。
 直也の手が雪よりも温かいということだ。
 当たり前の事実に俺は安堵した。

「消えちゃったね。ぼく時々、思うんだ。今こうして兄さんと一緒にいるのは夢で、
 目が覚めたら誰も傍にいないんじゃないかって。父さんや母さんみたいに急に
 遠くに離れて行っちゃって」
「馬鹿なことを言って俺を怒らせるな」

 直也は俺に腹を立てるなというが、無理な話だ。
 苛々して、脅すような調子になってしまう。

「でも、そう思うんだ。あの時、ぼくがお土産をねだったりしなかったら、
 父さんたちは他の道を選んだんじゃないかとか。
 そういうのが勝手に浮かんでくるんだ」

 直也は泣いてはいなかった。
 だが、俺には理解しがたい理由で自分を責めて苦しんでいた。

「直也。聞いてくれ」

 先程まで美しい姿をみせていた小さな水溜りから直也は顔を上げた。

「父さんと母さんが死んだのは事故なんだ。
 誰のせいでもないし、おまえに何の責任もない」
「わかってるよ。でもね」

 直也は目を伏せた。
 長い睫毛が目の縁を覆い隠す。

「頭で考えるのと感じてることじゃ違うんだ。
 なんかどっちも上手くいかなくて変な感じ」

 俺は我慢できずに直也を部屋の中に引き込んで、乱暴にサッシを閉めた。
 思ったよりも大きな音がして直也は身をすくませる。

「くだらない事を考えるな」

 俺は直也の腕を掴んだままリビングに取って返した。
 驚いている直也に構わずソファに押し込む。

「兄さん?」

 俺は直也の前にグラスを突きつけた。
 中では、透き通ったオレンジ色の液体が湯気を立てている。

「大体、腹が減ってるからおかしな考えになるんだ。
 これでも飲んで、少しはまともな事を話すんだな。
 聞いてて俺は頭が痛くなってきたぞ」

 直也は目を見開いて俺を見ていたが、仕舞いには吹き出してグラスを受け取った。

「なにこれ?」
「ホットワインだ。アルコールが飲みたいんだろう?」

 気の抜けかけたワインを温めて、蜂蜜とオレンジジュースを入れたものだ。
 アルコール分はないに等しい。

「作ってくれたんだ」

 直也はニッコリした。

「有り難く、いただきます」

 冷めかけているだろうが、直也は熱いものが苦手だから問題ないだろう。

「ごめんなさい。今日は兄さんを怒らせてばかりいるよね」
「反省してるか?」
「うん」

 肩に重みを感じて目をやると直也が俺に寄りかかって点け放しの液晶画面を見ていた。

「この子。可愛いよね?」

 俺は直也の冷たい体を抱き寄せた。
 中学に上がってからは、過干渉だと抗議されるので随分と久しぶりだ。
 防寒が優先されたのか直也は何も言わない。

「そうだな」

 骨格が感じられる薄い肩の感触に俺は一瞬にして感覚を奪われた。
 直也は成長期で手足ばかりが伸び、体重が追いつかない。
 ほとんどが骨と皮に見えた。

「でも、ちょっと煩い?」

 若い女性タレントを目で追っている直也を眺める。
 小さな頭から頤、胸に至る滑らかな線と関節の浮いた裸足の足首がアンバランスだ。

「どうしたの?」

 直也の細い指が俺の顔に触れる。
 俺はぼんやりと直也の唇の動きを見ていた。

「いや」

 仰向いた襟から鎖骨が覗いている。

「何でもない」

 もし、この世界に神が存在するなら、なぜこんなに脆いものを創造したのだろうか。
 少しでも力を入れたら壊れてしまいそうだ。
 心配で気が違いそうな衝動に襲われる。

「変なの」

 俺は慌てて庭に目を向けた。
 白い雪が全てを覆い尽くしてくれればいい。
 信じてもいない神に向かって、そう祈った。











                                       END
EDIT  |  22:42 |  二次創作  | CM(3) | Top↑

2007.12/04(Tue)

2007~2008 アニバーサリー企画開催! 

              後夜祭続行中! 


           2007年クリスマス~2008年ホワイトデー
      NIGHT HEAD アニバーサリー企画

2008年3月14日をもって、終了いたしました。
たくさんのご投稿、ありがとうございました!
ご投稿いただいた方々には厚く御礼申し上げますv
また、連載途中のお話が残っておりますので、
そちらが終了するまでは、後夜祭期間としたいと思います。
まだまだ書き(描き)足りない!期間内には間に合わなかったけど
実は作品ありました!という方が、いらっしゃいましたら、
ぜひぜひ、ご投稿お願いいたします


お題は各アニバーサリーにちなんだものでもよし、この時期(冬)に
合わせたものでもよし、キャラクターはもちろんNIGHT HEADの
二次創作ということですので、直人・直也の霧原兄弟が出ていれば
ヨシ、ということにいたします。
もちろん、各バイプレーヤーたちの出演も大歓迎です!

作品の長さは不問、長編でも中編でもSSでもSSSでも
作品の形式も不問、絵でも小説でも詩でも短歌でも俳句でも(…おいおい)
何でもあり!ですので、どなたさまもこぞって参加してくださいませ(*^_^*)



  ※投稿方法に関しましては、これまで通り、管理者閲覧のコメントに
   入れていただければ、順次こちらのブログにUPさせていただきます。
   サイトマスター様が各HPやブログに頁を作ってくださる場合は、
   URLをお知らせいただき、閲覧できるようにリンクをはらせて頂き
   たいと思っています。
   その他、何か疑問の点がありましたら、遠慮無くおっしゃって
   下さいませ、出来うる限り善処していく所存でございます。
                 (↑議員答弁じゃないんだから…)
   以上、何だか全てにおいてアバウトで申し訳ありませんが、
   どうかよろしくお願い致します。






           参加作品一覧 


by choco様
          「スノーホワイト」
          「聖なる歌の行方」
          「寒冷のころ」「疫病の年」
          「秘密」
          「キツネとウサギ」
          「夢の続き または、誰かの幸せな初夢」
          「甘くて苦い記憶」
          「トリックスターの告白」
          「チェブラーシカ」
          「聖バレンタインの憂鬱」前編
          「聖バレンタインの憂鬱」後編
          「〈ファイアボール +NIGHTHEAD〉 廉価版①」
          「〈ファイアボール +NIGHTHEAD〉 廉価版②」
          「スカボロフェア」



 
by saeko様
          「この世の果て」 
          「愛とは決して後悔しないこと ~ ある愛の詩 ~」 


by シシー様
          「ホラバック・ガール」①  
          「ホラバック・ガール」②
          「ホラバック・ガール」③



by EMIFU様
          「ふたりのバレンタイン」(四コマ漫画)
  

by 浅倉りゅぅ様
          「出来ました!」(イラスト)
          「反町さん」「ぬこ直也」(イラスト)
          「バレンタインは甘い罠」(*18禁SS)
          「祝企画?絵♪」(イラスト)

  

by siko
          「OBSCURE」①  
          「OBSCURE」②
          「OBSCURE」③  
          「OBSCURE」④
          「OBSCURE」⑤
          「OBSCURE」⑥
          「OBSCURE」⑦
          「OBSCURE」⑧
          「OBSCURE」⑨
          「OBSCURE」⑩
          「OBSCURE」⑪
          「OBSCURE」⑫ (完結)



by パタ
          「Foggy vision」①  
          「Foggy vision」②  
          「Foggy vision」③
          「Foggy vision」④
          「Foggy vision」⑤
          「反町くん日記~バレンタイン編~」①
          「反町くん日記~バレンタイン編~」②
          「反町くん日記~バレンタイン編~」③
          「反町くん日記~バレンタイン編~」④
          「反町くん日記~バレンタイン編~」⑤








  

 
                                              

      

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