スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
EDIT  |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑

2008.01/29(Tue)

企画siko作品 第5章 

           2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画



「OBSCURE」その5
UPしました、↑アニバ企画頁からお入り下さいませv

スポンサーサイト
EDIT  |  21:46 |  二次創作  | CM(7) | Top↑

2008.01/27(Sun)

アニバーサリー企画第14弾!(choco様作品Ⅸ) 

           2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画




<トリックスターの告白>




「ご苦労様でした」

 外から戻ってきてぐったりしてる兄さんに声をかけた。
 家政婦の一枝さん、翔子と早起枝さんの三人を車で送ってもらっただけなのになんで疲れるんだろう。

「なにか飲む?」
「ビール」

 キッチンからビールを持ってきて渡してあげた。

「はい」
「すまない」

 明日は休みだし、ゆっくりしててもらえばいい。
 すごくダルそうだったので、ぼくは席を外すことにした。

「じゃあ。ぼく部屋にいるね。明日の朝、後片付けするから流しに置きっ放しでいいよ」
「いや。そのくらいはやる。さっきの食器は直也が片したんだろう?」
「いいから!兄さんは仕事して疲れてるんだから。ぼくはあんまり手伝えることないし。いつも迷惑をかけてるし、それに」

 兄さんはビールの缶から顔を上げる。

「なんだ。それは?」

 顔をしかめている。ぼくは変なことを言ってしまったみたいだ。
 だけど、麻理子さんの『説明』を聞いてからぼくは兄さんに申し訳なくて仕方がない。
 いつもは忘れるようにしてる。でも、なにかの拍子に思い出すともうどうにもならない。
 頭の中がいっぱいになっちゃうんだ。

「なんでもないよ。とにかく、ぼくが片すって事。それだけ」

 高校生の時、兄さんは将来を嘱望される陸上のスプリンターだった。でも、両親が事故で亡くなって、まだ小さかったぼくの面倒を見るために自分の夢を捨てて今の仕事に就いたんだ。
 ぼくはその事を考えるとどうしたらいいかわからない。だって、兄さんの上に流れてしまった時間を取り戻してあげることなんかできやしないんだ。
 だから、兄弟仲がいいなんて言われると居たたまれない。違うそうじゃないって叫び出しそうになるんだ。

「直也。ちょっとここに座ってくれ」
「なんで?」

 兄さんはぼくの事がどんなに煩わしかったか知れないんだ。
 あれ以来、ぼくを見る度に兄さんが嫌な思いをしてるんじゃないかと思うと悲しくて傍にいるのが辛くなる。

「いいから」
「でも、宿題があるし」
「そんなに手間はとらせない」

 仕方なくて兄さんの隣に腰掛けた。

「このところ俺を避けてるな」
「そんな、こと」

 兄さんはため息を吐く。

「誤魔化さなくていい。どうしてなんだ。俺が煩わしいのか?」

 ぼくは驚いて兄さんの事を見た。

「確かにおまえはもう本当に子供ってわけじゃない。自分の考えがあるだろう。話してくれれば、俺も考える」
「考えるって?どういうこと」
「今まではおまえのする事になんでも口を出してきた。だが、これからはある程度は制限して直也の陣地には踏み込まないようにしようと思う」

 兄さんと面向かってきちんと話をするのはすごく久しぶりだった。ぼくは嬉しかったけど、兄さんにとっては面倒なんだと思うと胸が冷たくなった。

「うん。それでいいよ」

 早く終わらせてあげたくて、ぼくは簡単に返事をして立ち上がった。

「じゃあ。もう行くね」
「直也!」

 兄さんがぼくの腕を引っ張る。力では敵わないからぼくは兄さんの腕の中に倒れてしまった。

「まだ話は終わってないぞ。おまえの気持ちをきいてない」
「だから、いいって言ったじゃない!」

 大きな声でも出さないと自分を保つのが難しい。涙が出てきそうになって顔を他所ヘ向けた。

「そんなに俺が嫌なのか?」
「何言ってるの!それは兄さんの方じゃない!」
「どういう意味だ?」
「誤魔化してるのはそっちだよ!ぼくは知ってるんだから兄さんは」
 言いかけて、ぼくは慌てて黙る。
「俺がどうした?」
「なんでもない」

 ぼくは俯いた。

「直也。そんな訳ないだろう。頼むから、話してくれ」

 兄さんがすごく悲しそうな顔をするから自分が疫病神みたいな気になる。
 これ以上、兄さんを苦しめ続けることはできない。ぼくは、なにもかも明らかにして終わらせたほうがいいと思った。
 前に御厨さんは兄さんが結婚するようなことになったらぼくの面倒を見てくれると言っていた。ぼくはまだ子供で保護者が必要なんだろうけど、それは兄さんでなくてもいいはずだ。

「わかった」

 兄さんが楽になるような方法が何かあるに違いないんだ。

「その話、誰から聞いたんだ。麻理子か?」
「別に。誰とかないよ」
 ぼくは兄さんを見たくなくて目線をテーブルの角に固定する。
「安心しろ。麻理子を責めたりはしない。むしろ責められるべきは俺なんだ」
「え?」
「俺は麻理子が思ってるような『英雄』なんかじゃない。そんな大層なものじゃないんだ。だが、そう思わせたのは俺なんだ」

 兄さんはしばらくぼくの顔を見ていた。それから、額を押さえてため息を吐く。

「本当のことを話してやろう」

 まだ考え込んでいるような顔で話し始めた。

「確かに俺は陸上部のエースだった。どこに行ってもチヤホヤされて、オリンピック候補の話を世辞とも知らずにその気になってた。自分より速いヤツはいないと疑わないくらい増長してたんだ」

 まるで自分に語りかけてるみたいな低い声だったけど、息がかかるくらい傍にいるから聞き取るのは易しい。

「だが、ある時を境に俺のタイムは伸びなくなった。俺は焦ってなんでもやったが効果はなかった。今まで難なくしてきた事ができないんだ。それどころか記録が落ち始めた。時間は壁みたいに固くなってびくともしない。コーチも監督もなにも言わなかったが、選手として見捨てられようとしているのが嫌でもわかったよ」
「兄さん」
「がっかりしたか。俺は将来を棒に振ったオリンピック候補なんかじゃない。おまえをダシにして見限られる前に逃げ出したんだ」

 ぼくは言葉が出てこなかった。代わりに兄さんの肩に頭を押し付ける。

「俺は麻理子にちゃんと説明をしなかった。できなかった。走れなくなった俺なんかのところに誰がいてくれる?俺は一人になるのが恐ろしかった。あいつに傍にいてほしかったんだ」

 兄さんは挫折して、一番必要だった時期に父さんと母さんを事故で亡くしたんだ。どんなに不安だっただろう。

「麻理子は賢い女だ。冷静になれば真実が見えたはずだ。コーチも監督も俺を引き止めもしなかったんだからな。そんな有望選手がどこにいる?」

 口元だけが引き上がって笑ってる時みたいになった。

「あいつは気位が高いから頭ではわかってても認めなかったんだろうな。麻理子にとって俺は『英雄』でなければならなかった。普通の男じゃ満足しないんだ。だが、麻理子のそういうところに惹かれた」

 兄さんはなにかを恐れているようにぼくの体を抱く腕に力を込める。そんな兄さんを見るのは初めてでぼくは不安になった。

「麻理子といると特別でいられた。あいつは綺麗だし、周囲のヤツは麻理子が優れた相手としか付き合わないのを知っていたからな。俺は選ばれて得意だった」

 悪い事が起こりそうで怖くてぼくも兄さんにしがみつく。

「俺は凡庸で臆病なんだ。それに気付いて震え上がってるような情けない人間だ。しかし、麻理子に気を持たせた償いだけはするつもりだ」
「償いって?」
「あいつが嫌になるまでこの茶番に付き合う」
「いつまで?」
「いつまででもだ」

 ぼくは驚いた。兄さんは本気なんだ。

「そんな顔をするな。麻理子は遅かれ早かれ俺を捨てるだろう。俺はあいつに相応しい男じゃない。いつまでも自分を誤魔化すなんて事は誰にもできない。そろそろ潮時なんだ」
「寂しい?」
「そうかもな。でも、直也はもうしばらく一緒にいてくれるだろう?」

 瞬きして、兄さんを見る。

「おまえはいつも俺を助けてくれたな。走れなくなった陸上選手じゃない俺を見てくれた。直也が俺を明るい光の方へ引っ張って行ってくれたんだ」
「ぼく?」
「俺がなんとかまともでいられたのは、全部おまえのお陰なんだ。親代わりなんて表向きだけで、面倒をかけたのはむしろ俺だ。直也には本当に嫌な思いをさせたな。すまなかった。俺を許してくれ」

 ぼくは悲しくて、苦しくなって息ができなくなってしまった。

「止めて。そんなこと言うの。変だよ」
「そうか。だが、直也は俺が嫌になっただろう?」
「馬鹿!ぼくは兄さんがなんだって構わない!そんなのどうでもいいよ!」

 自分の声で頭が痛くなる。

「兄さんが一緒にいてくれるなら他の事なんかどうだっていい。なのに、どうして?謝るなんて、そんなの、おかしい!」

 ぼくは兄さんにしがみついたまま子供みたいに泣き出してしまった。

「直也」

 兄さんは小さい頃みたいにぼくの背中を擦ってくれる。

「それがおまえの気持ちなのか?そう思っていいんだな?」

 ぼくは頷いた。

「そうか。わかった」

 兄さんの笑った顔をぼくは久しぶりに見ていた。



 気持ちが納まってくると恥ずかしくなってぼくは兄さんから少し離れた。

「顔を拭け」

兄さんがティッシュを渡してくれる。ぼくは慌てて涙を拭いて鼻をかんだ。

「で、でも!麻理子さんに捨てられちゃったら。それから、どうする気?」
「そうだな。おまえが成人するまでは浮いた事はできないな」
「ええ!」

 ぼくは簡単な引き算をしてみた。まだ七年も先じゃない。

「その時、兄さんっていくつ?三十四?」
「そうなるな」

 兄さんは平気な顔でビールの缶を掴んだ。

「おまえの事が片付いたら、一回りくらい若い奥さんでももらうとするか」
「なにそれ。なんかやらしい。エロオヤジみたい」
「直也!」

 兄さんはふざけてぼくをソファの上に押さえつけた。ぼくは嬉しくて悲鳴を上げる。

「エロオヤジ!」

 ぼくはもう祈らない。願い事なんかしない。誰にも跪かない。
 だって、ずっと欲しかったものがここにある。もう他にはなにもいらないんだ。







END
EDIT  |  22:13 |  二次創作  | CM(7) | Top↑

2008.01/25(Fri)

アニバーサリー企画第13弾!(EMIFUさん作品) 

           2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画



 祝v絵描きさん初参加
 EMIFUさんから四コマ漫画作品の投稿をいただきました。
 下記よりお入り下さい。

          「ふたりのバレンタイン」 



EDIT  |  22:54 |  二次創作  | CM(4) | Top↑

2008.01/24(Thu)

アニバーサリー企画第12弾!(choco様作品Ⅷ) 



<甘くて苦い記憶>




 帰宅してドアを開ける。
 すこぶる賑やかで俺は面食らった。
「直人さん。おかえりなさい」
「お帰りなさい」
「お邪魔してます」
 三人の女性が出迎えてくれる。家政婦の一枝さんと双海さん、天本さんという顔触れだ。
「ああ、どうも。直也はどこですか?」
 俺はリビングを見回す。
「それが私とお嬢さん方にご馳走してくださるって直也さんが。今、台所に」
「そうなんですか。わかりました」
 鞄をそこら辺に置いてキッチンに入ろうとすると慌てて一枝さんが立ち上がった。
「嫌だわ。私ったら。直人さんは座ってらしてください。お仕事で疲れてらっしゃるでしょう」
「いえ、構いません。そのままで」
 俺はキッチンに入った。
「兄さん。お帰りなさい」
 直也はフライパンの上に薄く生地を伸ばしていた。料理はできないが、クレープだけは得意だ。
「ああ。なにか手伝うか?」
「本当?でも、もうあんまりする事ないかな」
 傍にバナナとチョコレートを刻んだものとココアパウダー、シナモンシュガーが用意してあった。
いつもはベーコンや卵と一緒に朝食かブランチに食べさせてもらっているが、女性には甘いものの方がいいのだろう。
「味見して」
 口に一切れ放り込まれる。味は悪くない。
「大丈夫だ。ちょっと甘いが」
「そう。じゃあ、ちょうどいいね。兄さんのにはココアパウダーだけをかけるから」
 皿を出してやる。後はおかわりの紅茶を用意してテーブルに運んでやった。
「まあ、まあ。本当にすみません」
 一枝さんが恐縮して頭を下げる。
「いつもお世話になってるんですから、このくらい当然ですよ。気にしないでください」
 俺と直也で皿やフォークをセッティングした。
「本当に仲のいいご兄弟ですね。お嬢さん方もそう思いませんか?」
 二人は俺の顔をじっと眺めている。
「ええ」
「すごく」
 俺はなぜだか居心地の悪い思いで席に着いた。
「そんな事ないよ!今日はみんながいるからいい顔してるだけ。いつもはすごく横暴なんだから」
 直也が抗議する。
「それは、おまえだろう。俺は直也のお陰で忍耐が鍛えられたんだぞ」
「なにそれ」
 俺は皿の上のクレープをフォークの端で一口大に切った。
「それにしても、直也さんは隅に置けませんね。こんな可愛らしいお嬢さんが二人も遊びにいらっしゃるなんて」
「違うよ。今日は早起枝さんの声楽の練習を見せてもらって。翔子も一緒だったし。だから、その帰りに寄ってもらったの。それだけ」
「あら。そうなんですか?」
 一枝さんはまだ質問があるようだったが、直也の機嫌を重んじて口を閉じた。
「そういえば、もうすぐバレンタインですね。もうあげる相手はお決まりなんですか?」
「決まってます」
「私も」
 双海さんも天本さんも口が重くて、会話は思うように進まない。だが、一枝さんはまったく気にしていないようだ。
 俺は彼女の存在に感謝した。これからは少しぐらいの遅刻や無理な休暇願いがあっても喜んで呑もうと心に決める。
「それは楽しみですね。お若い方はそうじゃないと」
 一人で会話を続けられる。これは偉大な才能だ。

 時間が遅くなったため俺は三人を車で送る事にした。
「本当にすみません。家まで送っていただいちゃって」
 何度も頭を下げながら、一枝さんは車を降りた。車内には俺と双海さん、天本さんが残される。
 先刻まで一人で話していた一枝さんがいなくなり、一気に沈黙が訪れた。
「私。双海さんのこと好きかも」
 天本さんが突然、話し始める。
「私もあなたが嫌いじゃない」
「本当?じゃあ、仲良くなれる?」
「たぶん。でも」
「うん。問題がある」
 二人の少女は顔を見合わせた。
「いつ解決するかな?」
「それは直也次第」
「直也君が選ぶ?」
「そう」
 天本さんはため息を吐く。
「だったら、今はまだ友だちじゃないんだ」
「今は駄目」
「わかった」
 二人は俺には理解不能の会話を繰り広げた末、メルアドの交換を始めた。
「それにね、双海さん。私わかったの。敵はあなただけじゃないのね」
「ええ」
 ミラー越しに二人と目が合う。
「道はこっちで良かったかな?」
 俺は冷や汗をかきながらお伺いを立てた。
「はい」
「大丈夫です」
「そ、そうか。良かった」
 自分が何を喋っているのかわからなくなる。居たたまれなさで死ぬ思いだ。


END
EDIT  |  23:55 |  二次創作  | CM(5) | Top↑

2008.01/22(Tue)

企画siko作品 第4章 

           2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画



「OBSCURE」その4
UPしました、↑アニバ企画頁からお入り下さいませv

EDIT  |  21:50 |  二次創作  | CM(6) | Top↑

2008.01/22(Tue)

アニバーサリー企画第九弾!(パタ作品Ⅰ-⑤) 

Foggy vision 
*これは、霧原兄弟がアークの連中に出会う前とお考え下さい。


[登場人物モデル紹介] 

マダムユエ(雲) → 三雲(映画版)  
ツェー(曽) → 曽根崎(ドラマ版第18話&20話)
中佐 → 坂口(ドラマ版第21話&映画版)


                      ~5~


「…ぉや!!」
自分の声で目が覚めた。照明を落とした部屋。
だが体の上には毛布がありシーツが掛ったベッドに横たわっている。両手も自由だ。
(…夢か…)
細く長く息を吐いた。
そして状況を認識するとすぐさま、首だけ捻って隣のベッドを見た。
(直也)
心の中で呼びかける。
直人の声が聞こえたかのように、隣のベッド上の塊がもぞもぞと動き、
直人側に寝返りを打つのがわかった。
例の観音様のような寝顔は見えなかったが、
周辺ビルからの照射で、直也の輪郭だけはおぼろげながら確認できた。
(直也…良かった…)
首を元に戻し安堵の溜め息を洩らす。

年が明けてから既に半月以上経つが、初めて見た夢がこれだ。
惨々なプロセスを思い出し、片手で顔半分を覆った。
(夢で良かった。…だが何故あんな夢を?直也がいなくなる夢を…?)
所詮夢なのだから、あり得ない荒唐無稽な展開になるのは当然で、
戦前の上海という設定も受け入れることができる。
しかし直也そっくりの少女が出て来て、始めは少女の声だったのが、
やがて直也の声で自分を憐れむかのように話しかけてきたのには、
単に夢だと片付けられない何かがあるような気がした。
(Yの仕業か?いやあそこにはYらしき者は出て来なかった。
Yなら、最後には少女からY自身にきっと姿を変えるはずだ)
更に、危うい色香の女に「貴方は一人」と連呼され動揺する自分。
中佐と呼ばれていた男に連れ去られる直也の声の少女を、悲痛な声で呼び続ける自分。
それらを思い起こす。
“力”が使えないことより、拘束が解けないことより、
直也がいないということが自分を打ちのめした。

つらつら考えてみると、直人には思い当たる節があった。
それは、“自分の中の弱さや恐れ”だ。
自分を理解し支えてくれる直也。自分が自分である為には直也が必要だ。
直也がもしいなくなったら、おそらく生きていく力を失うだろう。
そんな想いは、日に日に強くなっていく。
“外”に出た当初はそれほどでもなかったのに。
『離別は狂気と死を招く』
神谷司がこの世に残した最後の予言の一節が頭をよぎった。

(直也、お前はどうなんだ?)
“外”に出てから本当に色々な経験をした。
脱走したのを何度も後悔したり、命の危険に晒されたこともあった。
それらを乗り越えてきた今、直也は僅かながらも自信をつけてきているのがわかる。
直也の考えも徐々に変わってきているはずだ。
(直也は俺を必要としてくれてるのか?
相手を必要不可欠と思うのは自分だけではないのか?
直也が俺を必要としなくったら?…そんな日を俺は一番恐れている)

ふと喉の渇きを覚え、直也を起こさないよう気を付けながら、
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。
ベッドの縁に座って中身を飲みながら、また夢を反芻し始めた。
(あの3人は何者だ?)
夢とはいえかなりリアルだった。
(あんな奴らに会うという前ぶれなのか?
それとも、軍ほどでないにしても、ある程度大きな組織と対峙するという暗示なのか?
…いや所詮は夢だ。俺の考え過ぎだ)
打ち消してみたものの、自分には直也のような予知能力はないにも関わらず、
何故か変な夢だと一笑に付すことができない。
(夢であるように願うだけだ)
そうしてボトルをあおった。

ベッドに潜り込み目を閉じたが、脳裏には夢の映像がフラッシュバックしている。
それを振り払うかのように、寝返りを打った時だった。
「…兄さん…」
不意に呼ばれた。いつもの、心を包み込むような穏やかな声。
(ああ、まさしく直也だ)
安堵の思いで、直也側に体を向けた。
「悪かった。起こしてしまって」
「ううん。ちょうど眠りが浅くなったところだから」
「それならいいんだが」
「それに、何故だか兄さんが僕を呼んでる気がした」
(ああ…これだから俺は…)
胸が震えた。
「少し明るくしていいか?」
「うん」
そして、互いの顔が確認できる程度に点灯した。

上半身を起こした状態で直也を見た時、黒目がちな瞳と目が合った。
「どうしたの?」
直也も上体を起こした。
直人はそれには答えず、ベッドを出て直也の側に立った。
「本当にどうし…」
言い終わらないうちに、直人は右手で直也の左頬に触れ、
夢の中の少女の泣きぼくろがあった辺りを親指でなぞった。
直也の意識に、自分とそっくりな顔の中国服の少女が映し出された。
(この子は…この女の子は?)
されるがままに直人を見上げる。相変わらず直人は何も言わない。
(夢…なの?兄さんの…)
やがて、直人は直也の隣に腰を下ろした。
「直也」
次の瞬間、直也の体は勢いよく直人の胸に引き寄せられた。
兄の夢がドッと流れ込んで来る。
後ろ手に縛られ地下室らしき場所に拘束された兄。
兄に話し掛ける中国服姿の3人。
彼らに怒りを向ける兄だが、“力”が全く発動されない様子。
そして先程の少女。歌う。兄に語りかける。動揺する兄。連れ去られる。叫ぶ兄。
(あ…)
無意識にギュッとしがみつくと、直人も抱きしめ返して来た。
ショッキングな映像を直也がリーディングしてしまう危険は重々承知していたが、
今はただただ、直也の血の通った肉体に触れていたかった。
―今腕の中に抱きしめた物がたった1つの真実―

「悪かった。変な物を見せて」
「ううん、大丈夫。・・・あそこは中国?」
「ああ、どうやら戦前の上海らしい」
「戦前?上海?」
「フッ…夢だからな」
「あの人達は?」
「3人のことか?あいつらは何かの暗示か?何者かわかるか?」
「…わからなかった」
「そうか…」
「兄さん」
「ん?」
「どうして僕はあそこにいなかったんだろう?」
直也に触れて穏やかさを取り戻したはずが、その言葉に胸が疼いた。

「直也、しばらくこのままでいさせてくれ!」
直也を抱いたまま倒れ込み、ベッドに進入して来た。
直也に体を寄せベッドの中央部にいざなう。
「な…兄さん!」
固く抱きすくめられる。しかし直也はそれを拒まなかった。
物心ついた時から兄はずっと闘って来た。
無理解と恐れ故に自分達を攻撃して来る者達と。そして自分自身と。
いつ何時も決して弱味を見せない。
プライドを高く保つことで、精神の均衡を保っている。
そんな兄が今、自分の前で弱く脆い部分を晒け出している。
(知ってるよ。兄さんの心はいつも傷ついている。涙を湛えている。だから…)
「ぶつけて、僕に。ありのままの兄さんを。僕はいつでも受け止める」
「…」
「本当だよ」
「俺を守ってくれ、直也」
(兄さんに抱かれながら、僕は兄さんの心の淵を垣間見る。
本当は繊細で壊れやすくて、温かく優しい心の核を抱く…)     =完=



                    
                    

                   
           


EDIT  |  19:31 |  二次創作  | CM(8) | Top↑

2008.01/21(Mon)

お知らせ 

親愛なるゲスト様

いつも当ブログにお越しいただき有難うございます。
実は、UPしたはずのコメントが後日消えてしまうという怪現象が最近発生しています。
おそらくFC2側のサーバーの不具合によるものかと推測されます。
両管理人のコメントにおいて数回発生したことが確認されておりますが、
以前ご自分のコメントが消えてしまった経験をお持ちのゲスト様がいらっしゃいましたら、
ここに謹んでお詫び申し上げます。
また併せて、管理人都合で消去したものではないことをご理解いただければ幸いです。
以上、今後とも当ブログを宜しくお願い申し上げます。    siko&パタ
EDIT  |  18:54 |  お知らせ  | CM(0) | Top↑

2008.01/20(Sun)

アニバーサリー企画第11弾!(choco様作品Ⅶ) 

      2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画
              皆様の投稿をお待ちしております






<夢の続き> または、誰かの幸せな初夢



 目を覚ました直也は、頭痛と一言では言い表せないような疲労感に襲われた。
 呻きながら、見覚えのない天井を見て顔をしかめる。

「ええと」

 声は掠れていて、喉が痛い。昨夜の酒量を思い出しただけで吐き気がしそうだ。
 その上、悪いことに記憶が曖昧ではあるものの状況が掴めないほど情報は不足していない。
 身を起こして、自分ひとりしかいない寝台を叩いた。

「最悪」

 突然、バリアフリー仕様のドアノブが引き下がる。
 入ってきたのは、ジーンズに白いシャツを引っかけた長身の男である。

「どこに行ってたんだよ!」

 投げつけられた枕を避けながら、器用にドアを足で蹴って閉める。
 両手はミネラルウォーターのペットボトルとグラスで塞がっていた。

「なにを怒ってるんだ?」
「なんでいないんだよ!馬鹿!ヤリ逃げかと思うだろ!」
「はあ?」

 とりあえず、ガラス製のグラスを安全なテーブルの上に避難させる。

「起きたらベッドに一人だなんてさ。なんかそう思うだろ」
「そうか。心配させてすまなかった」

 近付いてきた直人の手を直也は軽く叩いて払い除けた。

「大体、昨日はすごい酔っ払ってたしさ!」
「それは、おまえだけだ。俺は酔ってない」
「そうなの?」

 直也が大人しくなったので、直人は寝台に腰を下ろした。

「勝手して悪かったが、特に抵抗もなかったからな」
「そ、それは。なんか、その。結構、気持ち良かったし」
「ああ、なるほど」

 まだ不機嫌な顔で相手を睨むと直人の手からペットボトルを取り上げる。
 キャップを外して直接口をつけた。

「おい。グラスがあるぞ」
「いいよ。面倒だし」
「まあ、構わないが」

 頭を撫でようと手を伸ばした途端、直也が顔を上げる。

「これじゃなくてエビアンの方がいい」
「わかった」
「あと、直接毛布じゃなくてタオルケットが好きなんだけど」
「用意しておく」
「それから」
「うん?」

 直也は顔を他所へ向けた。

「もう一回。キスしてくれない?」

 変な間に困惑して直人の方を伺おうとしたが、できなかった。
 抵抗する間もなく、寝台に引き倒されて強引に唇が合わさってくる。

「んう」

 乱暴な動作とは裏腹にキスは焦れったくなるほど優しかった。



「ちょっと!キスだけだってば」


「ちょっ、と」


「」

 意味のある言葉を直也から聞くにはもう少し時間がかかりそうだ。





(強制終了)
EDIT  |  17:17 |  二次創作  | CM(5) | Top↑

2008.01/20(Sun)

アニバーサリー企画第九弾!(パタ作品Ⅰ-④) 

Foggy vision 
*これは、霧原兄弟がアークの連中に出会う前とお考え下さい。


[登場人物モデル紹介] 

マダムユエ(雲) → 三雲(映画版)  
ツェー(曽) → 曽根崎(ドラマ版第18話&20話)
中佐 → 坂口(ドラマ版第21話&映画版)


                      ~4~


静電気を起こすレベルまで直人の“力”は戻ったが、まだ拘束を解くまでには至らなかった。
「ねえ、折角上海に来たんだから楽しんでいったらどお?」
「この状態でどう楽しむんだ!?」
「美姑娘には興味はなくて?貴方も男でしょ?」
「フン、色仕掛けか?古典的なやり方だな」
「古典的ではありませんよ。古今東西最も普遍的な方法です」
やがて扉の外に足音とツェーの声が聞こえてきた。
「快!快来呀!没有時間」(早く、早くしろ!時間がないよ)

「ほうら、ナイチンゲールが飛んで来た」
「私はどちらかといえば、鶯の方が好みですが」
「あらそうなの?フフフ・・貴方はどう、直人」と
直人に流し目を送った。
「進!」(入れ!)
そして扉の陰から、10代後半とおぼしき少女が現れた。
濃いピンクの地に紅色の縁取りがある膝下丈の中国服に、
褲子(クーツ)と呼ばれる白いズボンを穿いていた。
前髪は眉下で切り揃えられ、長い髪を両耳の上から三つ編みにして垂らしていた。
そして、白い芙蓉の花の髪飾り。
服の袖に両手先を隠し胸の前に組み、両膝をちょこんと軽く折り曲げて挨拶の仕草をした。
顔は俯き加減で良く見えない。
「怖がらなくても大丈夫。さあ、こっちにおいで」
女が手招きをする。
「到雲大姐的前辺去吧」(マダムユエのそばに行きなさい)
中佐が流暢な中国語で促すと、少女はしずしずと入室して来た。
女のそばに来た時、やっと顔を上げた。
その顔を見た瞬間、直人は息を呑んだ。
「直也!!!」

「直也、お前直也だろ!?今までどこに行っていた?」
直人は少女の方に身を乗り出した。しかし少女は、直人の顔を見て小首を傾げるだけだった。
「直也、わからないのか!?俺はお前の兄だ。直也、どうした?忘れたのか!?」
「駄目よ、日本語で言っても。イェイェは殆どわからないんだから」
「イェイェだと!?お前ら直也に何をした?こんな女装なんかさせてどういうつもりだ!?」
「這位是従日本来的客人、叫霧原直人先生」
(こちらは日本からいらしたお客サマね、霧原直人サマ云うよ)
ツェーが中国語で説明をした。
「おいっ、俺と同じように薬を飲ませてるんじゃないだろうな!?」
「いいえ、そんなこと一切してませんよ」
「嘘言うな!・・・なあ、お前は本当は直也だろ?
こいつらに記憶を消す薬を飲まされたんだろ?それで俺のことがわからないんだろ?」
「・・・・?」
「頼む、何か言ってくれ。直也!!」
「だから~この子は“なおや”じゃないって言ってるでしょう。
“他”っていう字のにんべんを取った漢字があるわね。
あれを2つ重ねてイェイェって云うの!」
「“他”からにんべんを取った漢字・・・・・・“直也”の“也”じゃないか!
 やっぱり直也だろうが、くそったれ!こんな偶然があってたまるか!
嘘をつくんなら、もっと考えてつきやがれ!!」
直人の怒声に、重いはずの鉄の扉がガタガタ音をたてた。
「大声を出さないで下さい。娘さんが怯えてるでしょう」
「貴方もわからずやねえ。この子は女の子よ。
こんな美姑娘を男と間違えるなんて、貴方どうかしているわ」
「そう、そう。どうかしてるね」
ツェーは自分の頭の横で、人差し指を2回クルクルッと回した。
「俺は信じない」
少女を驚かせないように小声で言うと、直人はもう一度少女の顔を見た。
黒目がちな瞳に不安気な表情を宿して直人を見ていた。
(これだ、この表情は直也の・・・)
だがよく見ると、その左の目元には泣きぼくろがあった。
(・・・おかしい、これだけ近くにいるのに直也の波動が全く伝わって来ない。
ならばここにいるのは直也じゃなくて、全くの他人だというのか?)

「信じられないんだったら、証拠を見せてあげてもいいわ」
「証拠?おいっ、まさかここで脱がせようってんじゃ」
「アイヤ~!あなたスケべェねえ」
「まあ大胆なこと!でもお生憎様。そんな無粋なことしないわよ。
イェイェ、お前歌ってごらん。こちらのお客さんがお前の歌を聴きたいって」
「歌だと?」
「姿形は誤魔化せても、声帯だけは誤魔化しようがありませんからね」
「也也、這位客人説想听你唱歌的声音」
(イェイェ、こちらのお客サマがお前の歌声聴きたいと言ってるよ)
「好」
初めて少女が口を開いたが、「はい」の一言だけでは正直男か女かよくわからなかった。
「そうね、何の歌がいいかしら?お前が日本語で歌える歌というと・・・」
「サカスの唄なら歌えるよ、ユエ大姐」
「サーカスの唄ね・・・いいわ、それいきましょ。どうイェイェ、伴奏なしで歌えるかしら?」
「你能不能用日文唱歌“馬戯団的歌”?就是“馬戯団的歌”、好嗎?」
(日本語で“サカスの唄”歌えるか?“サカスの唄”だよ、いいな?」
少女はゆっくり頷いた。

直人は、この3人が自分に恥辱を与えるような方法を使って来るだろうと予想していたので、
直也そっくりのこのイェイェという少女に歌わせるという展開に少々戸惑っていた。
そんな戸惑いを知る由もなく、やがて少女は静かに歌い出した。
                 
  旅のつばくろ 淋しかないか
  おれもさみしい サーカス暮らし
  とんぼがえりで 今年もくれて
  知らぬ他国の 花を見た      *歌  松平晃
                      *作詩 西条八十  作曲 古賀政男

「どう?この娘はね、四馬路にある店で歌ってるのよ。
こんな若くても舞台に立ってるんだから。見事なものでしょう」
女は腰に手を当て、自信ありげに直人を振り返った。
研究所時代に見た或る映画のビデオで、女優が歌っているのを聴いたことあるが、
七・五調の歌詞と哀調を帯びた旋律が妙に心に残った。
(俺達もまるで旅芸人のようだ。根なし草のようにあちこち漂うばかりだ)
その時以上に今回は、少女の澄んだ高音がサーカス芸人の哀切感をより引き立てていた。
それにしてもこの声。ソプラノだ。ボーイソプラノではない。
音楽にはあまり詳しくない直人だが、紛れもなく少女の声であることはわかった。
(直也じゃない!どういうことだ?こんなにも直也に似ているというのに・・・
・・・本当に別人なのか・・・・・・女の声、長い髪!そうだ!!)
「翔子だ!これは翔子だ!お前ら翔子まで連れて来て、一体何を考えてやがる!?」
「しょうこ?誰、それ?」
「コレの名前か?」ツェーがニヤつきながら小指を立てた。
「なおやの次はしょうこですか。貴方こそ一体何を考えているのですか?」
「イェイエ(也也)というのは源氏名だけど、この娘は上海生まれの上海育ち。
日本人ではないわ。その証拠に、日本語が殆どわからないでしょ?」
「もうたわ言はやめろ。
だいたい、直也そっくりの人間を何故わざわざ俺に見せたんだ?
お前ら、直也のことを知ってるな?知ってるから俺の動揺を誘う為に、あの娘を連れて来た。
そうだろう?直也を一体どこにやった?直也も俺のように拉致しているのか!?
直也にもしものことがあったら、タダじゃおかないからな!!」
直人は3人に鋭い視線を飛ばした。
3人の後方にある鉄の扉が、またしてもガタガタ音をたてた。

「さあイェイェ、そろそろ店に出る時間だよ」
「也也、上班上班!」(イェイェ、お仕事お仕事ね)
ツェーが手を叩いた。
「おいっ、俺の質問に答えろ!直也をどうした!?直也をどこへやった!?
ばっくれんじゃねえぞ!!」
その時、左手だけだが戒めが解けた。
その左手を見て、直人は唇の端を上げてニヤッと笑った。
3人に焦りの表情が表れた。
「は、早くその娘を連れて行きな」
「快、快走呀、快走呀」(早く、早く行くよ)とツェーは少女の腰を押した。
少女は腰を押し出される形で扉の方に向かっていたが、
何を思ったか不意に踵を返して直人の方に歩いて来た。
「危ないですよ、こっちに来なさい!」
「也也、不行!那個男子非常危険危険」(やめなさい、その男凄く危険だよ)
「駄目よ、こっちへいらっしゃい!」
3人3様に止めたが、少女は意に介する様子もなく近つ゛いて来た。
(な、何だ?何を・・・?)
だいぶ近つ゛いた所で立ち止まり直人を見上げて言った。
「お気の毒に・・・」
何と!!流暢な日本語。しかも驚いたことに直也の声!!
片時でも忘れることがない直也の声!!
「ど、どうして!?・・・直也!!やっぱり直也だったのか!!直也!!!」
自由になった左手で直也に触れようとした。が、
「来なさい!」
背後から近つ゛いた中佐が、少女?の両手首を片手で掴み引きずるようにしてその場を離れさせた。
「フフ・・・残念ね、霧原直人」
服に隠れた足首からピストルを取り出し、直人に銃口を向けた。
「これで失礼するね」
ツェーも懐からナイフを取り出し直人を牽制した。
その姿勢のまま、扉の方に後ろ向きに歩いて行った。
「おい、待て。直也を連れて行くなッ!直也をどうする気だ!?直也~!!」
「早く、早く退散するのです」
先に扉の外に出た中佐が叫んだ。
「い、痛い!」
苦痛を訴える直也の声の少女。
「な、直也ッ!直也~~!!」
直人の叫びを残し、扉が重々しく閉まった。外ではガチャガチャという鍵の音。
「駄目だ、行くな~直也~直也~~~ッッ!!」  





        

                 


                     


EDIT  |  05:53 |  二次創作  | CM(5) | Top↑

2008.01/15(Tue)

シシーさん作品「ホラバック・ガール」② 

         2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画






ホラバック・ガール」②






直也は自分でも意識しないうちに、あの女性が歩いていった方に足を進めていた。
自分の視界に、彼女は既にいない。気配だけを、まるで追いかけるように、直也は急いだ。

今回に限って、「いつ何処で、どのような」が分からぬ曖昧な予知だった。ただ何となくそんな予感に襲われたというだけだった。直也にしては珍しいことで、それを酷くもどかしく感じた。

まだ二度しか会ったことがなく、面識どころか名前も知らない相手だというのに、何故こうも危機感に駆り立てられるのか、直也にも分からなかった。――が、その時。


階段。そこから不自然な姿勢で転落する女性。その目は驚愕に見開かれている。


自分の脳裏に突然展開したこの映像に、直也は立ちすくんだ。
そして、反射的に左側を見る。館の出口のすぐそばまで来ていた。

階段。咄嗟に思い当たって、直也はダッと出口の自動ドアに駆け寄り、そのまま外に走り出た。
この図書館は少し高い位置に建てられているため、幅広の長い階段を上らなければ入り口に辿り着かないのだ。従って、帰る時は当然その階段を降りなければならないわけで―――。

下を見下ろす形で視線を巡らせると、案の定だった。
階段の真ん中辺りで、あの女性がしゃがみ込み、右足を抱えていた。持っていたらしきバッグは足元に投げ出され、顔は苦痛に歪んでいる。転落したらしい。

ああ、やっぱり。そう思うと同時に、自分の予知した危機がこうも出し抜けに起こったことに直也は驚いていた。そして、知っていながらも防げなかった自分を責めた。

自分でも意識しないうちに、直也は彼女に駆け寄ろうと小走りに階段を降りていった。
その時、彼女よりも上の位置で唖然としたまま突っ立っている、5歳くらいの男の子の傍を通り、その時に拾った残留思念から事情を察知した。

階段の上の方ででちょろちょろとふざけまわっていたその男の子が、傍を通って降りようとしていた女性にぶつかりそうになった。女性がそれを避けようとしたところ、足を踏み外し、変な姿勢のまま転落して中腹付近で止まった。そういうことらしい。

「大丈夫ですか?」

直也は彼女の傍らにしゃがみ込んで目線を同じくし、声をかけた。周りには何人かこっちを見ながら通りすがる大人がいたが、皆そのまま素通りしていく。冷たいものだ、と直也は内心ため息をついた。

女性は苦しげな顔を直也に向けながら、

「大丈夫……じゃないかもしれないです」

と、掠れた声で呟いた。細面で色白の顔は青ざめている。外科的な痛みとかいったものよりも、不安からきているように見えた。

「怪我されたんですか?」

彼女の身体には触れないようにしながら、直也は尋ねる。

「何か、この辺りが……」

そう言いながら、彼女はスリッポンを履いた右足の甲を手でさすった。親指の付け根より下の辺りを押した時、

「うッ」

痛んだらしく、眉間に皺を寄せた。

「痛いんですか? ……立てませんよね?」

「分かりませんけど……あの、ご迷惑でなかったら、ちょっと肩を貸して頂けませんか? 階段の下まででいいので……」

直也は一瞬怯んだ。が、彼女のがるような目に、意を決した。

「どうぞ」

直也は彼女の右側に周り、自分の肩で彼女を右腕から持ち上げるようにして立たせた。
次の瞬間、彼女の思いが怒涛のように流れ込んでくる。


どうしようどうしようどうすればいいの。もうすぐ本番なのに、怖い、ローザンヌが、ジゼルが、先生になんていえば、ああどうしよう、ローザンヌ最後のチャンスなのに、舞台、ジゼル、主役なのに、どうしようどうしよう、先生、ヴァリエーションが、立てない、治らないかも、どうしよう、どうしようどうしよう、ああ終わってしまう――――


その激しさに直也は圧倒され、足元がふらつきそうになった。だが何とか堪える。

これだったのだ。彼女が遭う「危ない目」とは。階段から落ちて怪我をすることではなく、それをきっかけに起こるダンサーとしての危機。



<続>
EDIT  |  20:07 |  二次創作  | CM(6) | Top↑

2008.01/15(Tue)

企画siko作品 第3章 

           2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画



「OBSCURE」その3
UPしました、↑アニバ企画頁からお入り下さいませv


や、昨夜はchocoさん、パタさんのお話を一気読みした御利益か、
豊さま、真ちゃんが出てくる夢を見てしまいました(^_^)v
これは霧原兄弟じゃなくて俳優さん話になりますので、つづきは
「さすらい~」ブログにてv(そちらもヨロシクです、えへへ)

PS
企画頁の目次を作者順にした他、章立てをちょっと変更しました。
パタさん、勝手にいじってゴメンです。

EDIT  |  07:43 |  二次創作  | CM(6) | Top↑

2008.01/14(Mon)

アニバーサリー企画第十弾!(choco様作品Ⅵ) 

         2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画





<キツネとウサギ>



 御厨からの面倒な依頼だったが、幸い、俺は無事に役目を果たすことができた。
 いつもの尊大な面で頭も下げない奴だが、今まで世話になったことを考えると無下にもできない。義理を欠くというものだ。
 車を出そうとしている俺のスーツの袖を直也が引っ張る。
「兄さん。見て、ほら」
 直也は得意そうに制服のタイを指さす。
「真直ぐでしょ」
 学校の制服がブレザータイプだったためタイを結ぶ必要があった。俺は中学に上がる前に直也に結び方を教えたが意外に不器用で上手くできない。
 だが、そのうち慣れるだろうと放っておいた。
「もう一回やってみろ」
「え?」
「もう一回。タイを結んで見せてくれ」
 俺は辛抱強く繰り返した。
「いいけど」
 訝しそうな顔で直也はタイを解いた。綺麗に結びが解ける。上手く結べている証拠だ。
「ええと。あ、そうだ」
 直也は英語で歌を歌い出した。声変わりが完全でない直也の声は澄んで独特の魅力がある。
『キツネのだんなは腹ペコで出かけた』
 マザーグースの歌詞だと俺はすぐに気付いた。
 直也は英語が得意科目ではないが、歌の形で習ったために先生役の発音の正確さが浮き彫りになる。
「できた!」
 歌に合わせてテンポ良く結び終えて直也はニッコリした。タイの形状は申し分ない。
 俺が教えたものより複雑だが直也には向いているようだ。
「誰に習ったんだ?」
 褒められることを確信して俺に向けられていた直也の笑顔は一瞬にして凍りつく。
「あの」
「誰だ?」
 先刻まで軽やかに歌を奏でていた直也の口は急に大人しくなった。
「と、友だちの親戚の人」
「友だちって誰のことだ?」
 俺は直也の友人の名前を大体は把握している。
「兄さんの知らない友だち」
「直也。俺を怒らせたいのか?」
「なんで怒るの。ぼくは悪いことしてないよ!」
 顔を他所へ向ける。
「だったら、話せるんじゃないか?」
「ぼく」
「直也。俺を誤魔化せると思うなよ」
 直也の顎を掴んで無理にこちらを向かせた。
「今、話をするなら頭ごなしに叱ったりはしない。どんな内容でも、だ。だが、黙ってて後で拙い事が出てきてみろ。俺は容赦しないぞ」
 怖がって涙ぐんでいるのを見て気が咎めたが、今はそんなことに構っていられない。
「本当に悪いことしてないよ」
「話すんだ」
 直也は口を開いた。そして、概ね事実と思われることを話した。
「ここにいろ。外に出るんじゃないぞ」
 しゃくりあげている直也を置いて、俺は車の外に出た。
 直也が歌った歌には幾つかのバージョンがある。その内容は、キツネにウサギが殺され、食べられてしまうというものだった。

 黒いタートルネック姿の三雲を見つけて俺は足早に歩み寄った。
「霧原。帰ったんじゃないのか?」
「おまえに話があって戻ってきた」
 三雲は俺の顔を眺めていたが、得心したように肯いた。
「立ち話もなんだ。入れよ」
 ドアを開いて俺を招き入れる。
「で、話ってなんだ?」
 三雲は英文学が専門だ。本場のイギリスで日本人が国文学を教示するとは滑稽だが、相当に優秀なのだろう。
「直也に構うのは止せ」
「なんだって?どういう意味だ?」
「わかってるはずだ。今回は警告するが、次はないぞ」
 デスクに寄りかかって俺を伺いながら三雲は縁に添って指を滑らせていた。
「可笑しな事を言うんだな。俺がなにをしたって言うんだ」
 この時、俺は直也と三雲が交わした『契約』については知らなかった。
「ネクタイの結び方を教えて、一緒にコーヒーを飲んだ。それがそんなに悪いことなのか?」
「白々しい」
 俺は思わず拳を握る。
「なにがだ?大体、問題はおまえの方にあるんじゃないか?」
「なんだと!」
「直也君を誰にも見せたり触らせたりしたくないんだろう。あの子を鎖で繋いで箱の中にでも閉じ込めるつもりか?まったく。たいした兄貴もあったもんだよ」
「馬鹿なことを言うな。いつ俺が」
 三雲はデスクから身を起こして俺に近付いた。
「自分の胸に聞くんだな。直也君は大人になろうとしてる。おまえの事が不要になってきてるんだ。それを認めようともしないで、目隠ししてなにも見せないじゃないか」
「違う。俺は」
「なにが違うんだ、霧原。おまえってヤツは自己欺瞞の塊だな。あの子は何にでも興味を示して知りたがってる。世界がどのくらい広いのか自分の手で触れて確かめたいんだ」
 俺は言うべき言葉を失って黙るしかない。
「守ってるようなふりをして直也君を閉じ込める檻になるつもりか?まさかそれがおまえの本意じゃないだろう。よく考えるんだな」
 三雲は俺の肩を叩いてドアに向かう。振り返りざま、こう言った。
「おまえの役目はもう終わったんだ」







END

EDIT  |  17:35 |  二次創作  | CM(6) | Top↑

2008.01/13(Sun)

アニバーサリー企画第九弾!(パタ作品Ⅰ-③) 

 Foggy vision 
*これは、霧原兄弟がアークの連中に出会う前とお考え下さい。


[登場人物モデル紹介] 

マダムユエ(雲) → 三雲(映画版)  
ツェー(曽) → 曽根崎(ドラマ版第18話&20話)
中佐 → 坂口(ドラマ版第21話&映画版)




  
                 ~3~

やや沈黙があった後、中佐が口を開いた。
「まあ、いいでしょう。時に、貴方は徴兵検査はお済みですか?
検査延期は26歳までと定められていますが」
「俺の住んでる日本は、徴兵制など布かれていない!」
「ほほう。ではまだ済んでいないという訳ですね」
「じゃ、“M検”もマダね?」
ツェーが下卑た笑いを見せた。
「“M検”ってなあに?」
「何だ、それは?」
「なに、性病検査ですよ。軍隊に病気を持ち込まれたら困りますからね」
ツェーが女の耳元に顔を寄せ、M検について説明し始めた。
それを聞く女の口元に怪し気な笑いが浮かんだ。
「あ~ら、残念。私も男に生まれて軍医か衛生兵になりたかったわぁ!
あ~悔しい。あ~悔しい。男装して検査場に潜り込もうかしらねえ」
「大姐も好き者ね」
「女性でも立ち会えますよ」
「えっ、本当?」
「ええ、国防婦人会に入るか看護婦になることです」
「国防婦人会?ねえ、私に白い割烹着似合うかしら?」
「イヒヒヒヒ・・・リョ妻ケンボの大姐、見てみたいことよ」
「お黙り!でも中佐、折角だからこの場で徴兵検査しませんこと?」
「そうですね」
今まで無表情だった中佐の顔に、サディスティックな表情が浮かんだ。
「何をする気だ?やめろ!拷問か、アヘンか!?」
「私が軍医代理で診察してあげるわよ」
好色そうな表情で女は、直人が繋がれているベッドの縁に座ろうとした。
「寄るな!」
女を睨んだ瞬間、女の肘から下に静電気が走った。
「わッ、何、これ!?冬じゃないのにビリッと来たわ。これがもしかして貴方の“力”なの?」
「いけません、マダム!薬が切れかかっている!」
「何て事!」
「今貴女が感じたものは、この人の“力”のほんの一端です。M検は後にして下さい」
(よし、これで徐々に“力”が戻って来る。俺が“力”を望んだのは、反町の時に続き2度目だ)
「作戦変更です。薬が切れないうちに、早く次の作戦を決行しましょう」
「わかったわ。ツェー、用意してあるわね?」
「明白明白。当然」
中国語で答えながら、ツェーは部屋を出て行った。
EDIT  |  07:49 |  二次創作  | CM(4) | Top↑

2008.01/13(Sun)

アニバーサリー企画第九弾!(パタ作品Ⅰ-②) 

Foggy vision 
*これは、霧原兄弟がアークの連中に出会う前とお考え下さい。


[登場人物モデル紹介] 

マダムユエ(雲) → 三雲(映画版)  
ツェー(曽) → 曽根崎(ドラマ版第18話&20話)
中佐 → 坂口(ドラマ版第21話&映画版)




                   ~2~

「とにかく貴方が一人でいたということは、紛れもない事実よ。模造記憶なんかじゃないわ」
「その通り。模造記憶とは違います」
背が高く首の長い男が扉を開けて入って来た。
赤茶色のくるぶし丈の中国服を着ているが、女と同様流暢な日本語であった。
「少佐!」
振り向きざまツェーが言った。
「ツェー、この馬鹿
女が嗜める。
「いいのです、マダムユエ。私が何者かわかった方が圧力をかけやすい」
と言って被っている白いソフト帽を脱いだ。
「何だと!?圧力とは何だ、圧力とは?」
「ったく、お前は二重の馬鹿だよ。今は少佐じゃなくて中佐に昇進しているんだよ!」
「アイヤ~」ツェーは首を竦めた。
「少佐とか中佐とか、アンタ軍人か?」
「そうです。上海駐在です。こちらの二人は私の仲間です」
「仲間?フン、笑わせるぜ。おおかた日本軍が雇った中国人スパイかなんかじゃないのか?」
「なかなか想像力が逞しいですね」
「じゃあ聞くが、俺を拉致したのは何の為だ?」
「貴方の“力”が必要だからですよ」
「俺の“力”?俺の“力”がどういうものかアンタは知ってるのか?」
「ええ。ですから貴方にここへ来てもらったのです」
「だがな、どういう訳か今俺の“力”は消えている。
今後“力”が戻るかどうかわからない。もし俺に“力”が戻らなかったら、アンタどうする?」
「“力”は戻りますよ」
「何だと?何故そう言い切れる?」
「我が軍が開発したある薬で、一時的に貴方の“力”を抑えているのです。
貴方の“力”は強大ですからね。
それがあったのでは、連れて来るのに多くの者が負傷してしまいます。
失礼とは思いましたが、薬を使わせていただきました」
「薬だと?**以前俺も“力”を抑える薬物を服用したことがあるが
 ひどい副作用に襲われた。**
・・・そうだ!今俺の身に起こってること、これは副作用だ!
薬による幻覚だ、幻覚を見ているんだ!」
「違います。幻覚ではありません。実際に起きていることです」
「じゃあ、俺が日本に一人だけでいたというのはどういう訳だ?
直也は、弟はどうした?アンタなら何か知ってるだろう?」
「弟さん?さあ知りませんね。先程マダムやツェーが言った通りです。
本題に入らせてもらっていいですか?
手短に申し上げましょう。我が軍は貴方を必要としているのです。
貴方の“力”は一個師団いえ、師団どころではない、一個軍にも匹敵します」
「さっきから我が軍、我が軍って言っているが、いいこと教えてやろう。
1945年8月15日に日本の負けで戦争は終わる。
そして、アンタら軍は消滅するんだぜ。陸軍も海軍もだ。軍人は日本からいなくなるのさ」

「あら、日本が戦争起こすの?いつ、どこの国と?」
黙って直人と中佐のやり取りを聞いていた女が口をはさんだ。
(この女、脳天気過ぎる。本当に日本の開戦を知らないのか?
ってことは、今は1941年12月8日以前ということか・・・
いやまさか、“蘆溝橋”も知らないとか・・・だとしたら、もっと前ということになる)
直人は女の問いには答えなかった。
敗戦や軍解体という言葉を聞いて軍人がどういう反応をするか、そちらの方に興味があった。
しかしこの中佐は、眉一つ動かすでもなく極めて冷静だった。
「貴方には予知能力もあるのですか?それは聞いてませんでしたね。
仮に貴方の予知が正しいとして、貴方の“力”を得ることで戦況も変わってくると思いますよ。
負けを勝ちに転じることが可能となるでしょう。
超能力については、今や全世界の軍隊で研究されています。
そして我が軍の一部ですが、超能力者だけで構成される軍を作ろうと考えています。
いわば“裏の軍隊”です。全世界に先駆け、この日本が実施するのです」
「超能力を軍事に使おうって魂胆か!?」
「いけませんか?軍隊というのは、時間と金のかかるものなんですよ。
日本全国から壮丁を集め、これに兵隊教育を施し一人前にする。
働き手を軍隊に取られて、民間人は大変ですよ。
職業軍人にしても、幼年学校から士官学校へ長い期間をかけて教育を施す。
軍人・兵隊これらを維持する食糧・被服・住居などにかかる費用と、
武器・兵器を生産し維持する費用など、国家は毎年多大な予算を計上するのです。
ところが貴方達超能力者の“力”は、一人であっても強大な効果を発揮する。
何百万何千万円もする兵器何台分にも相当する」
「冗談じゃない!超能力は殺人の道具ではない!」
「まあお聞きなさい。
満足する戦果を挙げる為には、ある程度の犠牲を覚悟しなくてはなりません。
ですが超能力を研究し上手く運用すれば、
少ない兵力で大きな戦果を挙げられると確信します。
軍隊として極めて理想的です。人的物的犠牲も減りますし、
無理して多くの兵隊をかき集めることもしなくて済む。
従って国民の負担も軽くなるし、国家の支出も減る」
「詭弁だな」
「あ~ら、良いことばかりじゃなくて?」
「霧原さん、貴方は超能力の可能性をよくわかってないようですね。
貴方達の“力”によって、多くの兵隊の負担を、国家の負担を軽くできるのです。
つまり、国民の国家の役に立つ=世の為人の為になるという訳ですよ。
素晴らしいことだと思いませんか?」
「何が世の為人の為だ。そんな言葉で誤魔化せるとでも思ってるのか!
軍が俺に協力しろというのは、つまり俺に人を殺せと言ってるのと同じだ。
他の超能力者共が協力しても、俺は絶対お前らには協力しない!!」

「ホホホホホホ・・・随分威勢のいいことねえ。ますます気に入ったわ。
でもね、日本で誰にも受け入れてもらえない貴方に、生きていく場所はあるかしら?
親にも見捨てられたって聞いたわよ」
「うるさい!黙れ!!」
「誰にも受け入れてもらえない辛さ、私にはわかるわ。
さっき私もツェーも両親は日本人と言ったでしょう?
中佐の前で何なんだけど、日本の軍人をはじめとした男達が中国にやって来て、
単身で滞在が長くなると決まって女を買う。
こっちに店出してる芸者でも場末の淫売宿の女でも。
そうして出来たのが私達よ。いわば“外地の子”。
任期が終わると外地に母子共々捨てられる。
おかげで、こっちの日本人街でも日陰者扱いよ。
ったく、ちゃんとサックしてやればいいのにさ、いい迷惑よねえ」
「そうよ。ワタシのおカサンのけ者にされて、アヘンチュ毒になって死んだよ。
ワタシ、あっちの家こっちの家タライ回しにされた。辛カタ。悲シカタ。
ダ~レも味方いない。アナタもキト同じ」
「作り話で人の同情を誘い、何とか俺に協力させようという肚だな?」
「ほ~ら、誰にも愛されないから、人を信じようという心を失っているのよ」
「どこにも行き場がないはじかれた貴方を、軍が全面的に面倒みようと言っているのです」
「俺は軍のイヌになる気はこれっぽっちもない!!」
反響する自分の声を聞きながら、怒りに燃える目を三人に向けた。
(アヘンか・・・あそこの隅に転がってる柄の長いパイプのような物、
あれがアヘン吸引の道具か?ってことは、ここはおそらく元アヘン窟。
そうか、この甘ったるい匂いはアヘンの・・・俺もそのうちアヘンを吸わされて・・・
・・・軍ならやる!
軍の名の下に、軍に協力しない民間人をアヘン漬けにするくらい平気でやってのける。
そうして禁断症状に襲われるから、軍に協力せざるを得なくなる)
新たな不安が黒雲のように広がる。
(薬で“力”を抑えられている、この拘束も取れない、八方塞がりだ。
直也の意識さえ確認できれば俺には“力”が戻る。
たった1度の過去の経験だが、俺には確信がある。ああ、直也さえいれば・・・
直也、どこにいる?お前は今どこで何をしているんだ?)

**注:ドラマ版第11話「DRUG 薬物」でのシーン。
     御厨からある日、一時的に“力”を抑える薬が送られて来た。
     確かに本当に“力”は消えたが、ある一定時間経過後副作用に襲われた。
     それは凄まじい幻覚症状だった。






 






EDIT  |  02:55 |  二次創作  | CM(0) | Top↑

2008.01/12(Sat)

アニバーサリー企画第九弾!(パタ作品Ⅰ-①) 

2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画
              皆様の投稿をお待ちしております


Foggy vision 
*これは、霧原兄弟がアークの連中に出会う前とお考え下さい。


[登場人物モデル紹介] 

マダムユエ(雲) → 三雲(映画版)  
ツェー(曽) → 曽根崎(ドラマ版第18話&20話)
中佐 → 坂口(ドラマ版第21話&映画版)


                      ~1~


湿った匂いと妙に甘ったるい匂いを感じ、直人は目を覚ました。
しかし暗くて何も見えない。
自分が何か台の上にいるのはわかったが、
後ろ手に縛られている上何かに繋がれている。
(クソッ、何者かに拉致されちまったのか!?)
彼は自分の置かれた状況をつかみかねていたが、ハッと何かに気付いて叫んだ。
「直也!」
耳を凝らすが、何も応答がない。
「直也、どこだ!?いるんだったら、返事しろ!」
数回試みたが、声は空しく反響し闇に消えるばかりだった。
直人は不安に駆られた。
直也もどこか別の場所で、今の自分と同じ状況に置かれているのではないか。
だとしたら、早く助けなければ・・・
それには、先ずこの忌々しい拘束を解かないと。
そう思い、日頃彼が忌み嫌う自分の“力”を発動した。
しかしどうしたことか、“力”が全く働かない。
(こ、これは・・・どうしたことだ?そうだ、あの時と同じだ)
あの時とは、**反町に拉致された時のことだ。**
あの時も、一時的だが直也の意識を全く感じることができない間、
“力”を駆使することができなかった。
(また反町か?いや、あいつとその手下は俺が痛めつけたはずだ。
だったら、別の誰かが・・・)
「直也ーーーッ!」
直人は、いないとわかっていながらも弟の名を呼ばずにはいられなかった。

闇に目が慣れてきた頃、誰かが階段を下りて来るような足音が聴こえてきた。
一人ではない。複数だ。直人は身構える。
「こっち。こっちよ、大姐。暗いから気を付けるね」
たどたどしい日本語を話す男の声と鍵を鍵穴に差し入れる音。
重々しい音をたてて鉄の扉が開くと、
「ここか?」
今度は女の声だ。
やがて照明が点され直人が扉の方に目を向けると、
30歳代前半くらいの女と40歳代後半くらいの小男が立っていた。
「ようこそ、霧原直人」
低くねっとりとした話し方。直人にとっては、どうにも好きになれない種類の声質だ。
妖しく危険な雰囲気を感じる。裏社会に生きている奴らだと直感的に思った。
第一、人を拉致するような行為は、堅気の人間のやることではない。
「誰だ!?お前達は!?」
「私はユエ。漢字で雲と書く。こっちはツェー。漢字で曽=曽我兄弟の曽と書くの」
直人の鋭い眼差しをはぐらかすように女が答えた。
暗めの赤い生地に、金色と黒で芥子の花が刺繍された長袖の中国服を着ている。
薄い唇には、生地と同じような色目の口紅。
サイドパーツにした前髪にはゆるくパーマがかかり、
髪全体を片方の耳下で一つに束ねている。
そして、直人の視線にもたじろくことなく、切れ長の目で自信あり気に直人を見据える。
「そう。ワタシ、ツェー云うね。ヨロシク、キリハラさん」
今度は男の方が口を開いた。丸顔で小柄だが、油断ならない雰囲気を漂わせている。

「お前達中国人か!?」
「いいえ。両親共日本人よ、私もツェーも」
「嘘をつくな」
「本当よ。その証拠に、私は普通に日本語をしゃべってるでしょう?
ツェーは中国人の家で育ったから日本語が危なっかしいのよ」
「フン。・・・じゃあ、ここは中華街って訳か!?」
「中華街?それは外国の中にある中国人居住地よね?
フフフ・・・ここはね、その逆よ。中国にある外国人居住地。租界とも云うわねえ」
「租界!?・・・じ、じゃあここは上海か!?しかも戦前の」
「そう!察しがいいわねえ。頭の回転の速い人間は好きだわ」
(ど、どういうことだ?何故俺一人だけが戦前の上海に連れて来られた?)
直人は自分の体と周囲を見回した。
「そうだ。直也はどうした?俺と一緒にいたはずだ!」
「なおや?」
「そうだ、俺の弟だ。直也も一緒にいたはずだ。直也をどこへやった!?」
「弟?そんなのいなかったわ。貴方一人だけだったわよ」
「嘘だ!直也はいつも俺と一緒にいる。俺一人のはずがない。隠すな!!」
「いいえ、一人よ。初めから貴方一人だったわ。一人だけ」
「一人」という言葉を女は4回言った。
強調したりヒステリックに言ったりした訳ではないが、その言葉がやけに胸に重く響いた。
「大姐もワタシも現場にいたよ。アナタ、一人だけだった。大姐の言うこと嘘じゃない」
「う、嘘だ・・・嘘だろう?」直人は動揺を隠せなかった。
「弟がそんなにも心配?」
女がゆっくりと近つ゛いてきた。
(駄目だ。この女に触れられたくない。こいつは海千山千の女だ。
俺なんかこいつにあっという間に手玉に取られてしまうだろう。
クッ・・・俺にとって不利な条件が揃い過ぎている。
動揺してる場合ではない。何とかしなければ)
直人は女を威嚇するかのように、足で台を踏み鳴らし大きな音を出した。
「そうか、わかった。お前達、俺に模造記憶を植えつけようとしているな!?」
「模造記憶?」
「そうだ。作り物の記憶だ。そうだろう?」
「何のこと?聞いたこともないわね。ツェー、お前はどういう意味だかわかる?」
「ワタシもわからない。日本語ムズカシよ」
「とぼけるな!!」
こんなにも怒声を放っているのにも関わらず、器物が破損される様子がない。
自分から“力”が消えていることを、直人は改めて実感した。

**注:ドラマ版第14話「SHADOW 影」でのシーン
     直也を刺した殺人マニア反町に拉致監禁された直人。
     重傷の直也は生死の境を彷徨っていた為、直人はその意識を感じ取れず、
     その間“力”が働かず、反町にやられっぱなしであった。 



EDIT  |  19:01 |  二次創作  | CM(6) | Top↑

2008.01/09(Wed)

アニバーサリー企画第八弾!(choco様作品Ⅴ) 



<秘密>



 お正月は明けたけど兄さんもぼくもまだ休みの真最中だ。
 兄さんはソファで新聞を読んでて、ぼくは傍で宿題を済ませながら
 ダラダラしていた。

「分からないところがあったら言ってくれ」
「うーん。大丈夫みたい」

 普段は家政婦さんが三人交代で来て家の事をしてくれる。
 でも、お盆とかお正月は休みを取ってるんだ。
 やっぱり、こういう時は家族で過ごすべきだからだと思う。
 ぼく以外誰もいない時の兄さんは大型犬かライオンみたいだ。
 ライオンって奥さん達に狩をさせて何もしないで寝てるけど、あんな感じなんだ。

「手が止まってるぞ。もう終わったのか?」
「あ!まだだったら」

 ぼくの手の下からノートを抜き取る。
 動き始めると速いんだから油断がならない。

「返してよ。もう」

 兄さんはしばらくノートを眺めて呟いた。

「二箇所、間違ってる」
「ええ!本当?」
「ああ。ここは単純な計算ミス」

 ノートを返してくれて指で紙面を叩いた。

「こっちはこの解法じゃ時間がかかり過ぎるだろう。
 学校でどう習ってるか知らないが」

 新聞に入ってたチラシの裏を使って式展開を書いてくれる。
 兄さんの字は角張ってて見辛いんだけど、ぼくは慣れてる。

「こういうものは、基本的な理屈がわかっていれば、後は因数分解で機械的に
 処理すればいいんだ。パターンはいくつかあるが、たいした数じゃないから
 暗記だな」
「ふうん」
「応用に行く前にこんなに間違ってたんじゃテストの点数は取れないぞ。
 本当に志望校を変えるつもりか?」
「だって」

 高校なんてどこでもいいと思ってた。でも、今は違う。
 翔子と同じ高校に行きたくてぼくは自分の成績よりもレベル上の学校に受験することにした。
 翔子はぼくの彼女なんだけど、すごく頭がいい。
 その上、可愛くて、綺麗な長い髪をしてるんだ。

「まあ、いい」

 兄さんはまた新聞を読み始める。
 ぼくは、手本を見ながらもう一回、問題を解いてみた。
 説明をしてもらったから当たり前なんだけど最初と比べて時間は半分も
 かからなかった。
 授業のときにたぶん同じ説明を受けていたと思う。
 でも、ぼくは翔子や兄さんみたいには物分りが良くない。

「兄さんは反対なの?無理だと思う?」
「成績は努力次第でどうにでもなる」

 兄さんは新聞を畳んで脇に置いた。

「選ぶのはおまえだ。俺が口出しすることじゃない」
「そうだけど」

 中学に上がってから兄さんはぼくに判断を任せてくれる事がある。
 押しつけられるのは嫌だけど急に大人扱いされても困ってしまう。
 だって、今までなんでも兄さんが決めてたんだ。

「直也」

 兄さんが口を開くと同時にPHSが鳴り出した。
 兄さんは携帯も持ってるけど、こっちは大学から携行を義務付けられてる業務用だ。

「はい。霧原です」

 仕事の邪魔になったらいけないと思って、ぼくは部屋に戻った。





 ノックの音がして、ぼくは返事をした。

「直也。ちょっといいか」
「どうしたの?」

 ぼくはドアを開ける。
 兄さんは驚いたことにスーツを着替えていた。

「少し面倒なことになった。悪いが支度して一緒に来てくれないか?」
「いいけど、どこに行くの?」
「俺の大学だ」
「どうして?」
「質問は後にしてくれ。制服でいい。なるべく早く頼む」

 言うだけ言うと向かいにある自分の部屋のドアを開ける。
 開けっ放しだから、中で兄さんが鞄に資料とノートパソコンをしまっているのが見えた。
 すごく慌ててる。
 ぼくもドアを閉めて急いで制服に着替えた。





 車から降りて駐車場から職員用の入り口に向かう。

「どうぞ。常時、身に着けていてください」

 警備の人から入校証を渡される。
 兄さんは入校証と一体になったIDカードを持ってるから関係ない。

「何時になるかわからないが、ここにいてくれ。
 泊まらなきゃならないようなら、また考える」

 兄さんの研究室に通される。
 今は休暇中だから誰もいない。

「ぼく。家で留守番してた方が良かったんじゃない。小学生じゃないんだから
 一人で大丈夫だよ」
「駄目だ」

 兄さんは御厨教授に呼びつけられたんだ。
 大学側が用意してた通訳の人が体調を崩しちゃって兄さんが代理をするように
 頼まれたらしい。
 テレビのニュースに出ていたすごく偉い人が外国から来ていて御厨さんが
 接待役なんだ。
 英語の通訳だし、誰でもよさそうに思える。
 でも、専門用語とか御厨さんの研究の内容とかをある程度わかってる人
 じゃないと困るみたい。
 兄さんは受ける義務はないんだろうけど、ぼくは先日の麻理子さんの
 『説明』で兄さんが御厨さんに対して『義理』がある事がわかってた。
 (興味をお持ちでしたら拙作『疫病の年』をご参照ください)
 御厨さんと折り合いが悪いのに文句を言いながらもいつも便宜を図るから
 おかしいとは思ってたんだ。

「どうして?」
「おまえがまだ大人じゃないからだ」

 ぼくは抗議しようとしたけど兄さんはもう背を向けてドアを閉める
 ところだった。

「もう」

 ぼくはドアを睨んでため息を吐いた。





 しばらくは実験用具や分析用の精密機器、化石の標本なんかが面白くて
 部屋の中を歩き回ってみたけど、一時間もするともううんざりだ。
 仕方ないから、宿題をすることにする。
 鞄も持ってきて良かった。

「うーん」

 退屈だったし、誰もいないと思ったから思い切りうなり声上げて伸びをする。

「誰かいるのか?」

 声をかけられて、飛び上がりそうになった。

「驚いたな。直也君じゃないか。そうか、霧原が連れてきたのか」

 三雲さんだった。

「さっきお兄さんの方を見かけたんだが、えらく忙しそうだった。
 御厨教授に呼ばれたんだろう?」

 三雲さんには、以前に教会で兄さんと一緒の時に自己紹介してもらってる。
 でも、兄さんは三雲さんとそりが合わないみたいで、ぼくも正直に言うと
 苦手なんだ。

「あ、はい。ええと、お邪魔してます」

 兄さんの研究室なんだから断る必要はないけど、なんて言ったらいいか
 わからなかった。

「別に邪魔じゃないよ。今日は野暮用で寄ったんだが、これは正解だったな」
「え?」
「ハプニングがないと人生がつまらないってことだよ」

 三雲さんはパイプ椅子を引いてきてぼくの傍に腰かけた。

「なにしてたんだ?学校の宿題?」
「はい」
「真面目なんだな。早起枝が言ってたよ。直也君の制服は有名な進学校の
 ヤツだってね」

 学校は進学校なんだけど、ぼくの成績はせいぜい中の上なんだ。
 だから、親戚や大人に褒められるとなんだか恥ずかしい。

「そんなことないです。ぼくは、あんまり成績のいいほうじゃないし。
 あの、それより早起枝さんですけど」
「ああ、あの子が気にかかるのか?」
「あ、あの時会ったきりだし!どうしてるかな、って。それだけです!」

 ぼくは誤解されそうな気がして慌てて三雲さんを遮った。 なんだか言い訳してるみたいになる。

「早起枝は元気だよ。いつも直也君の話をしてる」
「本当?」

 あれから教会で聖歌隊の人に聞いてみたけど早起枝さんは飛び入り
 参加だったらしくて誰も詳しいことを知っている人はいなかった。

「本当だ。きみにとても会いたがってる」

 急に三雲さんの手が伸びてきてぼくのタイを叩く。

「曲がってるな。プレーンノットか。霧原の仕込みだな」
「えと、はい。ぼくは上手くできなくて」
「プレーンノットは、結びは単純だが、器用でないと正確に形を納めるのが
 難しいんだ」
「そうなんですか?」

 ぼくは兄さんに比べると不器用だ。
 どうして上手くいかないか初めてわかった気がする。

「真直ぐに結べるやり方を知りたいか?」
「え!教えてくれるの?」
「ああ。俺の願いを聞き入れてくれたら、すぐにでも教えてやる」

 三雲さんの口角が引き上がる。
 それを見てぼくは心臓が跳ねた。

「願い、って。どんな?」
「そんな顔するな。簡単なことだよ。たいした話じゃない」

 ぼくの耳元に唇を寄せて囁く。

「きみの事を『直也』って呼ばせてくれ」

 驚いてぼくは三雲さんの顔を見た。

「そんなに見開くとデッカイ目を落っことすぞ」
「どうして?そんな」
「どうしてかな。たぶん『直也』と仲良くなりたいんだ」

 三雲さんはぼくから離れて椅子に座りなおすと音楽でも聞くように
 目を薄めた。

「無理にとは言わない。君の判断に任せるよ。いつまでも霧原の手を
 煩わせるのも子供の特権だろうから」

 見透かすようなことを言うから、ぼくはしばらく口が利けなかった。

「本当に、教えてくれるの?」
「俺は約束は守る。嘘はつかないよ」
「でも」

 まだ迷ってると三雲さんが近付いてきてこう言った。

「二人きりのときだけでいい。他のヤツがいる時には呼び捨てにはしない」
「それ本当?」
「嘘はつかないと言ったろう」
「だったら」
「いいのか。承知したと思っていいんだな?」

 ぼくは頷いた。

「いい子だ、直也。嬉しいよ」
「で、でも、本当に二人のときだけだよ!特に兄さんがいるときは
 絶対に駄目だよ!」

 三雲さんは吹き出して、なかなか納まらない。
 頭にきてぼくは三雲さんに抗議した。

「なにが可笑しいの!」
「いや、悪かった。霧原の前じゃ下手な口は叩かない。
 俺もまだもうしばらくは生きていたいんでね」

 訳のわからないことを言って肩を揺する。
 ぼくは苛々して三雲さんの事を睨みつけた。

「笑ってないで早く教えてよ」
「わかった。そんなに怒るな。それじゃセミウィンザー改定版の
 俺流エスカイアを特別に直也にだけ伝授しよう」

 三雲さんが器用に片目をつむる。
 ぼくはとんでもない事になってしまった気がしたけど自分で返事をして
 しまったのだからもうどうにもならない。
 兄さんの大学に来ることなんて滅多にないから大丈夫だと自分に言い
 聞かせるしかなかった。








END


EDIT  |  21:45 |  二次創作  | CM(5) | Top↑

2008.01/07(Mon)

企画四弾!(siko作品 第2章) 

           2007.12~2008.02〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画



「OBSCURE」その2
UPしました、企画頁からお入り下さいませv

コメントする時間がなくてスミマセンです/siko
EDIT  |  23:00 |  二次創作  | CM(4) | Top↑

2008.01/02(Wed)

アニバーサリー企画 第七弾! シシーさん作品(連載第1回) 


ホラバック・ガール」①





平日の図書館は大入り満員というわけでは決して無い。午前中となれば尚更だ。

その時間帯を狙って、直也はよく図書館に足を運ぶようになった。直人と一緒に行くこともあるが、最近は一人で行くことも多い。

不特定多数の人間が集まる場所へ直也が一人で出向くことに、直人は渋い顔をしたものだったが、最近は何も言わなくなった。割と平気な顔をして帰ってくる直也を見ているうち、慣れてしまったのかもしれない。

そんなわけで、今日も直也は本を入れる布バッグを片手に、一人図書館の中で、『国内の文学』の棚の間を行きつ戻りつしていた。

たいがい、図書館の中にいる人間というのは、各々自分の探し物に集中している場合が多い。従って己のエネルギーも自分の内側に向かっているわけで、外に放出されるようなことは少ないのだ。感応能力の強い直也が図書館の中に長時間いても苦痛に感じないのは、そのせいかもしれなかった。

他の閲覧者と同様、割とマイペースに本を探していた直也だったが、今日は少し気を緩め過ぎていたらしい。

「あっ」
「わっ……」

自分のすぐ右傍に若い女性がいたことに気付かず、もろにぶつかってしまった。

―――その瞬間、どっと流れ込んでくる相手の意識。
だが、悪いタイプのものではなかったため、ダメージは受けなかった。すぐさま相手に向き直り、謝罪する。

「……すみません」
「いえ、こっちこそ」
相手の女性は気を悪くした様子もなく、品のある物腰で会釈した。

直也はその女性に一瞬目を奪われた。
すば抜けた美人というわけでもなく、物凄く個性的な服装をしているわけでもない。にもかかわらず、彼女には否応なしに見る者を惹き付ける何かがあったのである。

女性はさして気を停めていない様子で、そのまま直也の横を通り過ぎて行く。直也はぼんやりと、その後姿を目で追った。

ピッと背筋を伸ばし、無駄のない流麗な動作で歩く彼女の身長は、165センチはあるかと思われた。ただ長身なだけではない。首が長く、頭が小さく、ファッションモデルと言われても頷けるほどにバランスの良いプロポーションをしていた。
紺色のパーカにジーパンというありふれた格好をし、髪も無造作に一つにくくっているだけなのにもかかわらず、その一挙一動に、人を惹き付けるしなやかなパワーがあるようだった。

直也は、その女性が自分の視界からいなくなってもなお、こうして見ただけで受けた強い印象の余韻を引きずっていた。そして、さっき偶発的に接触してしまった時に流れ込んできた彼女の意識とを融合させ、彼女の正体を掴んだ。

「バレエダンサーだ、あの人」

思わず口に出して呟いてしまった。






「遅かったじゃないか」

ホテルの部屋に戻ると開口一番、眉間に皺を寄せた兄にそう言われた。

「遅かったじゃないかって……それほど遅くなったとも思わないけど」

直也は口を尖らせ、ベッド脇の時計を見る。記憶が確かなら、自分がこの部屋を出て行ったのはほんの40分ほど前のことだったはずだ。

「いつもは、すぐそこの図書館に行くだけなら30分もあれば帰ってくるだろ」

いちいち時間を計っていたのか、この兄は。直也は半ば呆れ、

「今日は目当ての本を探すのに手間取っただけ。こういう日もあるよ」

と言いながら、布バッグをテーブルに乗せ、中の本を出して並べて行った。
本を探すのに手間取ったというのは、あながち嘘ではない。では何故手間取ったかというと……

「直也」
「……うん?」
「そのシリーズの2巻、前に借りたんじゃなかったか?」
「……え? あっ……」

直也は驚いて、借りてきた本のうちの一冊を手に取った。そうだ、これは前に借りたことがある。今日はこのシリーズの4巻目を借りるつもりでいたのに、今の今まで気付かなかった。

「何してんだ、全く」

直人の呆れたような声も、直也の耳を素通りして行った。

そう、あの後、本をいくつか探して棚の前を行ったりきたりしている間も、自分は何処か上の空だった。一度借りた本を気付かずにまた借りてしまうなんてミスをやらかすくらいに―――。

あのバレエダンサーから受けた強い印象がまだ尾を引いていることに、直也は改めて気付かされた。







次に直也が図書館に出向いたのは、その一週間後のことである。

5,6冊の本など、読み終えてしまうのはあっという間なのだ。もともと時間を持て余している身分な上に、集中力も高い。こうやって直也は、だいたい週1ペースで図書館に通っていた。

今日の館内は、先週に比べると人が多いように思えた。
先週借りたものを全て返却すると、直也はのんびりした足取りで国内文学の書架へと向かう。何を借りるか、今日はまだきちんとは決めていなかった。

途中、何人かとすれ違ったが、特に気に留めることはしないようにした。
気にしてしまうと自分の能力の関係上、余計なものをキャッチしてしまう恐れもあることだし。

――にもかかわらず、何故かその姿だけははっきりと視界に入ってきたのである。

ピッと背筋を伸ばした、長身の若い女性。服装こそこの前とは違っていたものの、無造作にくくった髪、すっきりと出された額、何よりその洗練された所作や歩き方は、間違いなく自分の記憶と合致するものだった。

先週ぶつかったあの女性だ。バレエダンサーの。

直也は、何故か心臓が小さく跳ねるのを感じた。同時に、前に彼女を見た時に受けた強い印象が蘇り、つい足を止めてしまう。

すれ違う瞬間、直也は彼女の顔に一瞬ではあったが、視線を送ってしまった。そして、ばっちり目が合った。その時、ひときわ大きく直也の心臓が跳ねる。

女性の方はすぐ別の方向に視線をそらし、そのまま歩いていってしまった。

だが。

「………」

直也はその場で立ち尽くした。色の薄い瞳に動揺が走る。
彼女にまた会ったからではない。唐突に「分かって」しまったからだ。こんな時、何故こうもいきなり能力が働くのか。

直也は眉をしかめ、首だけ回して彼女の後姿を見つめた。能力者としての目で。

――あの人は、近いうちに危ない目に遭う。








<続く>
EDIT  |  22:45 |  二次創作  | CM(2) | Top↑

2008.01/02(Wed)

アニバーサリー企画 第五弾&第六弾!(choco様作品Ⅲ・Ⅳ) 

<寒冷のころ>




 元旦に俺と直也は別々の相手と出かける事になった。
 参詣する神社は一緒だったし、混雑したところに子供だけで歩かせるのは心配である。
 俺は境内にいる間だけ直也と行動をともにすることにした。
「直人。遅いわよ!」
 麻理子が俺に向かって文句を言う。
 支度に時間がかかったのは直也なのになぜ叱りつけられるのは俺なのか。
 年が明けても世界は相変わらず、理不尽と無理解に満ちていた。
「なによ、その顔。久しぶりに会ったのに嬉しくないの?」
「そんな事は言ってないだろう」
 俺の答えを半ばで聞き流し、麻理子は直也に挨拶している。
「あけましておめでとう。直也君」
「あけましておめでとうございます」
 直也はよそいきの顔でニッコリしている。
「なんだか背が伸びたんじゃない?」
「え!本当?」
「本当よ。翔子ちゃんもそう思わない?」
 麻理子は隣にいた直也のクラスメイトを前に押し出した。
「直也。久しぶり。元気だった?」
 双海さんは、白いコートを着ていた。襟に金の飾り釦が付いていて、十代の少女の化粧気のない顔によく映えている。
「うん。翔子は?お祖母さんどうなの?」
「少し持ち直した。でも、年が年だから。もう長くはないかもしれないって、お母さんが」
 新年の挨拶とともに俺に小さく会釈すると双海さんは直也と並んで歩き出した。
「翔子ちゃんてすごい美人じゃない。驚いちゃった。直也君は相当な面食いね」
「さあな」
 俺は以前に彼女とは面識があった。学校に面談で呼ばれた際に直也から紹介を受けている。
「若いからお肌ツルツルだし。いいなあ!後で触らせてもらおうかしら?」
「止めておけ」
 彼女の第一印象は、年に似合わぬ落ち着きである。
「直人。こういう時は、『君の方がずっと美しいよ』とか言えない?」
「君の方がずっと美しいよ」
「もういいわ!」
 要望に応えてやったのに麻理子は顔を他所へ向けた。
「覚悟して。今日はすごいところを押さえたの。支払いは全部、お任せしますわ。霧原准教授さま」
 食事をするレストランのことだろう。俺は洒落た店を知らないから自分で予約すると言い渡されていた。
「カードは使えるんだろうな?」
「ええ。限度額で足りるかどうかはわからないけど」
「麻理子」
 麻理子は俺を見て吹き出す。
「馬鹿ね。冗談よ」
 冷や汗をかかせて満足したらしく、麻理子は笑顔で俺の腕に掴まった。
「兄さん」
 振り返った直也は俺と麻理子を見て顔をしかめる。何か言いかけていたようだが、口を結んで黙ってしまった。
「なんだ?」
「なんでもない」
 代わりに双海さんがこちらを向く。
「あそこで、おみくじが引けるみたい。やってみませんか?」
「いいわね。直人、行きましょうよ。神様が私たちの未来を指し示してくださるかもよ」
 麻理子が即座に承知して、俺の腕を引っ張った。
「くだらない。ただの紙切れだろう」
「文句を言わない!学者先生の理屈がいつも正しいとは限らないでしょ。大勢の人間が好んですることにはちゃんと理由があるものよ。それを頭ごなしに馬鹿にするなんて、科学を否定するのとどう違うの?」
 俺は前を向いたままの直也の事が気にかかる。
「直也はおみくじ嫌い?」
「そんなことないよ。行こう!」
 直也は双海さんの手を握るとさっさと石段を登って行った。俺も麻理子に合わせて石段を登る。
「結構きついわね」
 ハイヒールなんか履いてくるからだと思ったが、麻理子を怒らせると後が面倒だ。黙っていることにする。
「兄さん。麻理子さん。早く!」
 直也がこちらを向いて手を振った。機嫌が悪いわけではないらしい。
「あの元気。どこから来るのかしら?これって私が年を取っちゃったってこと?」
 段を上りきった麻理子は肩で息をしていた。
「ただの運動不足だろう。大体、おまえは俺より若いんだぞ」
「男と女じゃ違うわ」
 麻理子は急に真剣な顔になって俺をじっと見つめていた。
「なんだ?」
「なんでもない。直也君!」
 麻理子は俺を置いてかけ出したかと思うと、さっさと直也達と合流する。
「直人。早く来ないと『おじさん』って呼ぶわよ!」
 麻理子は何か俺に言いたい事があるようだ。だが、口にはしない。
「直也君と翔子ちゃんも言ってやって!」
「兄さんのおじさん!早く!」
「直人さんおじさん!」
 三人で面白がって、俺を年寄り扱いする。どうしてこんな時だけチームワークがいいんだ。
「ふざけるな」
 俺は直也の頭を小突いた。

「小吉。待ち人来たらず。これってどういう意味かしら?」
 引いたおみくじを見て麻理子は首を傾げる。
「だから、くだらないと言っただろう。俺の話を聞かないからだ」
「うわ。偉そう」
 祈祷所までの道は人でいっぱいだ。俺は直也について来て良かったと実感する。
「大変混雑しておりますので、お並びいただいている列を二つに分けさせていただきます。指示に従って、二列に分かれてください」
 スピーカーを持った係員がロープで道を分けている。
「やだ。なんかすごいわね」
 道が分かれる寸前に押されて、人波が大きくよれた。
「直也!」
 前を歩いていた直也と引き離されそうになり、俺は慌てて腕を掴んだ。
「直人さん」
 間違えて双海さんの腕を引き寄せていた。
「すまない」
 辺りを見回すと麻理子と直也が人の流れに逆らえずにいた。
 俺と双海さんはロープで分けられて、二人から離されてしまう。
「直人!心配しないで。直也君には私が付いてるから。向こうで会いましょう!」
「兄さん。翔子のこと頼んだよ!」
 俺と双海さんは頷くだけだった。

 俺はどちらかといえば、口が重い。双海さんもよく話す方ではない。
 二人で黙って人ごみを進んだ。
「直人さん。もう少しゆっくり歩いてください」
「ああ。すまない」
 俺の歩みについて来れず、息を切らしていた。
「本当に悪かった」
「いえ。あの。腕に掴まってもいいですか?」
 俺は驚いて直也の『彼女』の顔を眺める。
「はぐれちゃうと困るから。駄目ですか?」
「構わないが」
 双海さんは物怖じしない様子で俺の腕に手をかけた。距離が縮まって、シャンプーの香りが鼻をくすぐる。
 直也は彼女の長い髪が好きだと言うが、確かに艶々した見事な黒髪だ。
「すみません」
 双海さんは顔を上げて、ニッコリした。
 普段は、物静かで信念が感じられる顔立ちだが、笑うと年相応で本当に可愛い子だ。
「気にしなくていい」
「はい」
 その証拠に周囲の注目を集めている。本人はあまり自覚がないようで前方を真直ぐ見つめていた。
 俺は彼女を指差している失礼な輩を睨みつける。噂をするにしても控えめにやるべきで、礼儀知らずも甚だしい。
 最近の若者のモラルはどうなっているのか。
「直也」
 双海さんが唐突に口を開く。
「どうしてるでしょうね?」
 等間隔に配備された係員が立ち止まるなと指示を出す。
「麻理子も一緒だ。心配ない」
「そうじゃなくて、麻理子さんが綺麗で、魅力的だから心配なんです」
 俺は双海さんの顔をまじまじと見た。
「どうかしましたか?」
「そんな事を言うとは思わなかった。きみはいつも自信たっぷりに見えた」
「自信なんてありません。人の心は変わるものだから」
 双海さんは進行方向に目線を戻した。
「直也はいい加減なヤツじゃない。本当にきみの事が好きだと思う」
「わかってます。でも、誠実かどうかは問題じゃない。私は心が離れてしまったのなら無理に引き止めようとは思いません。本当にそんな事になったら悲しいけど、直也には、ありのままでいてほしいから」
 まだ女になりきっていない少女の横顔は、透き通るように美しかった。
「きみは強いんだな」
「直人さんは違うんですか?なにも気にかけていないように見えます」
「俺は」
 相手は中学生だと思った。だが、ここまで心の内を明かしてくれたのだ。
 俺も誠実になるべきだろう。
「気がかりがないってわけじゃない。確かに別の相手との未来を望むとすれば、それは仕方ないことだ。麻理子がそうしたいなら、諦めるしかないな」
「直也は?」
 意外な名前が出てきて、俺は戸惑った。
「直也?直也は俺の弟だ」
「家族も同じだと思うんです。人と人との関係はとても脆いから。気をつけないと簡単に欠けたり、壊れたりしてしまう」
 俺は口が利けなかった。
「兄さん」
 声の方向に直也と麻理子の姿を認めて俺は安堵した。これ以上、この議論は続けられそうもない。
「腕なんか組んじゃって二人で何を話してたの?」
 祈祷所の前で待っていた麻理子が俺を睨んだ。
「いや、これは」
「兄さんのタラシ!」
 直也にまで謗られる。
「直也。違うの。人がいっぱいで、不安だったから私から頼んだの」
 双海さんが助け舟を出してくれた。
「なんだ。ビックリしたよ」
「ごめんなさい」
 二人は賽銭箱の前に歩いていく。
「でも、鼻の下を伸ばしてたんじゃないの?」
「麻理子」
「まあ、いいわ。後でたっぷり返してもらうから」
 麻理子は俺の腕を引っ張って、格子の向こうに存在するであろう御神体に手を合わせる。
 なにを祈っているのだろう。そして、俺は、なにを願うべきなのか。
 わからず、形ばかりに手を合わせた。


END

※ 直人は翔子にもやられっぱなし。大学で賢しらなお嬢さん方相手にちゃんと講義できてるんでしょうか。











<疫病の年>


 新しい年になって、兄さんと麻理子さん、翔子の四人で神社にお参りに来ていた。
 でも、すごく混雑してたせいでぼくは兄さんと翔子から引き離されてしまったんだ。
 祈祷所で合流できるから別に構わないんだけど、普段はいつも兄さんも一緒だから慣れなくて変な感じだ。よく考えたら、麻理子さんと二人きりなんてこれが初めてかも知れない。
「直人と翔子ちゃん。どうしてるかしらね?」
 麻理子さんが突然、口を開く。
「直人って無愛想じゃない?翔子ちゃんは大人しそうだし。心配だわ」
 翔子は大人しいわけじゃない。無駄口は叩かないって感じなんだ。
 自分の意見はきちんと主張するし、はっきりし過ぎて『空気が読めない』なんて陰口を言う女の子もいるくらいだ。
でも、そんな事は絶対にない。すごく優しくて本当に相手の気持ちを思いやることのできる素敵な人なんだ。
「たぶん大丈夫。案外、気が合ってるかもしれない」
「あら。そんなこと言っていいの?翔子ちゃんが直人を好きになっちゃうかもよ。そうしたら、どうする?」
「まさか。それはないよ」
 ぼくは吹き出した。
「自信があるのね。直也君ってもしかして亭主関白タイプ?」
「違うよ!だって、兄さんと翔子じゃ年が離れ過ぎてるし」
「年寄り扱いだ!直人に言いつけてやる。でも、それからいくと直也君は私の事もそう思ってるわけ?悲しいわ」
 麻理子さんと話すとぼくはいつも混乱する。話題が次から次へと変わってなにを話してるかわからなくなるんだ。
「そんなの考えたことないよ。もう」
 兄さんと一緒に三人で食事をした事が何度かあるんだけど、いつもこうなる。後で兄さんに聞いたら、女はああいうものだって言われた。
でも、ぼくは翔子と話しててそんな事は一度もない。
「怒ったの?ごめんね。じゃあ、直也君は私の事をどう思ってるの?」
 麻理子さんは目を輝かせてぼくの答えを待ってる。こうなったら、ぼくが返事をするまで終わらないんだ。
「どうって。麻理子さんは、美人で知的だし、優しいと思う」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
 麻理子さんは微笑んだ。
「でも、最初の美人ってとこ以外は不正解です」
「え?」
「『美人』問題については十五の時に謙遜とかそういう馬鹿馬鹿しいことは全部止めたの。全面肯定よ。そして、私は知的でもないし、優しくもありません」
 麻理子さんは笑っていたんだけど、ぼくは口が利けなくなった。
「驚いた?」
「麻理子さん」
「そんな顔しても駄目。私はお兄さんじゃないから通用しません」
 ぼくは困って駆け出したいような気分だった。でも、周りは人でいっぱいなんだ。逃げていくところなんかどこにもない。
「観念した?今日はもう少し私の話を聞いてちょうだい。いいでしょ?」
 ぼくは頷くしかなかった。
「ご両親が亡くなってからもう十年にもなるのね」
 麻理子さんは前を見ながらひとり言みたいに話す。
「あれから何もかもが変わった。特に直人」
「兄さん?」
「そう。直也君は、まだ小さかったから以前の直人の事は覚えていないわね。あの人ね。陸上をやってたの。すごく足が速くて全国大会にいつも出場してた。オリンピックなんて話まであったんだから」
 驚いているぼくに顔を向ける。
「知らなかった?直人が言うわけないか」
「どうして?」
「だって、あなたのために陸上を諦めたから。トロフィーも賞状もみんな処分しちゃってなんにも残さなかった。心残りがあると良くないって。私は大会新を出した時のメダルだけでも残しておくように頼んだけど聞いてくれなかった」
 ぼくは苛々して麻理子さんを遮った。
「ぼくのせいってどういう意味ですか?」
 口調は自然にキツくなってしまったけど、麻理子さんはぼくの機嫌なんか気にもかけない。
「ご両親の事故の後、あなたを伯母さん夫婦が引き取るって言い出したの。財産目当てだったらしくて。幸い御厨教授が間に入ってくれて事なきを得たけど。あれで直人は懲りたんでしょうね」
 等間隔に立っている係員が何か怒鳴っていた。でも、ぼくにはよく聞き取れなかった。
「直人は、十七で自分の夢と才能を捨てたの。スポーツみたいな不安定なものじゃあなたを守れないから。全部あなたのために犠牲にした」
「犠牲」
「嫌な言い方よね。ごめんなさい。他に思いつかなくて」
 麻理子さんは同情するようにぼくの顔に触れた。嫌だと思ったけど、抵抗する気力がなかった。
「直也君を責めてるわけじゃない。あなたは小さな子供で無条件の愛情と庇護を受ける権利があった。それに直人が勝手に選んだことだもの」
「麻理子さんは結局なにが言いたいんですか?」
「直人があなたと引き換えに失ったものがあるってことを知ってほしかった。直也君はもう小さな子供じゃないから」
 ぼくは自分がちゃんと歩いているのが不思議で少し笑ってしまった。
「そして、考えてほしい。あの人を自由にできるのはあなただけ。直人には自分の人生を生きる権利があるのよ」
 しつこく耳鳴りがしていたが、麻理子さんの声だけははっきりと聞こえる。
「私の事を憎んでくれて構わない。ひどい女でビックリしたでしょ」
「どうして」
「え?」
 ぼくは顔を上げて麻理子さんを眺めた。薄く化粧した麻理子さんはとても綺麗だった。
「どうしてぼくがあなたを憎むんですか。麻理子さんは兄さんのために話してくれたんでしょう」
「直也君」
「麻理子さんはこの先ずっと兄さんを助けて守ってくれるんですよね。兄さんを幸せにしてくれる人をぼくがなぜ悪く思うんですか。あなたの言うことはいつも矛盾してます。そのせいで、ぼくには半分も理解できない」
「ダブルスタンダード?直人によく言われるわ」
 麻理子さんは口元だけで微笑んだ。自分の言葉の影響を推し量っているんだろう。
「安心してください。ぼくは、あなたの邪魔はしません」
「それが直也君の答え。そう思っていいの?」
「はい」
 前方に目を向けた麻理子さんの横顔はなぜか悲しそうだった。

「直也。なにをお願いしたの?」
 祈祷を終えて、石段を降りるぼくの腕を翔子が掴んだ。
「内緒。人に言うと叶わないんだよ」
 ぼくが本当に子供だった頃、兄さんに手を引かれて参詣をした。その時、翔子と同じ質問をしたぼくに緘黙が願い事を叶える条件だと教えてくれた。
「翔子は?」
「私も内緒。叶ってほしいから」
 昔、ぼくはひとつだけ願い事をした。
 『一人になりたくない。一人にしないでください。お願い』
 そして、傍にいてほしい人の名前を神様だけに教えた。
「叶うといいね」
 翔子はぼくの顔を覗き込んで首を傾げる。
「直也。なんだか変。なにかあったの?」
「別に。なにもないよ」
 神様には全部忘れてほしいんだ。それから、ぼくの無知を許してください。
 ぼくは本当に幼くて愚かで、してはいけない願い事がある事さえ知らなかった。


END

※ 大人の女性はさすがに中学生とは貫禄が違うようです。
  (三雲なんかより全然怖いよ。どうしよう)
   麻理子にはなぜか策士の印象があります。

コメントがあった記事を読む
EDIT  |  03:45 |  二次創作  | CM(3) | Top↑

2008.01/01(Tue)

明けまして萌えでとうございますv(^^)v 

いつも当ブログにお越しの皆様
毎度、乙女心MAXの熱き想いを有難うございます。
皆様の清き御心を宝箱に収めつつ、
切なくエロい路線で本年もお送りしていきたいと思います。
旧年同様、宜しくお願い申し上げます。        管理人一同
EDIT  |  00:13 |  お知らせ  | CM(2) | Top↑
 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。