スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
EDIT  |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑

2008.03/22(Sat)

アニバーサリー企画第22弾!  (chocoさん作品ⅩⅡ) 

           2007.12~2008.03〈NIGHT HEAD〉アニバーサリー企画





<聖バレンタインの憂鬱> 後編
※ 懲りずにラブコメに挑戦。有名菓子メーカーの回し者ではありませんので、あしからず。(汗)



「ありがとう」
 丁寧に包装紙で包まれた小さな箱を受け取った倉橋加奈子はニッコリと微笑んだ。
「それで、加奈子。なんていうか」
「いいの。『彼女』がいるんでしょ。あれは父が会社でもらってきたチョコレートを
 転用しただけ。日頃の感謝の気持ちです」
「そ、そうか。俺はてっきり」
 直人は決まりの悪い思いで頭を掻いた。
「残念でした。直人はモテるもんね」
「もういいだろ。悪かった」
 加奈子は吹き出して、上背のある直人の肩をプレゼントの箱で叩く。
「ううん、嬉しい。お金を使わせちゃってごめんね。これ開けていい?」
「ああ」
 中身は焼き菓子だ。加奈子は驚いて直人を見返す。
「アンテノールのマドレーヌじゃない。これ好きだって言った?」
 直人は肯いた。実際に覚えていたのは直也だが、わざわざ教える必要もない。
「結構、細かいのね?意外」
「煩いぞ。気に入らないなら返せ」
 伸びてきた直人の腕から慌てて菓子の箱を避難させる。
「駄目よ。もう、これは私のもの」
 間近にある直人の存在を加奈子は楽しんだ。
 これは恋だろうか、といつも思う。直人が傍に来ると加奈子は発情する。
 紛うことなき厳然たる事実だ。
 野生動物であれば疑うことなく恋愛であろうが、出来損ないの人間という種に
 おいてはいかがなものか。
「絶対に返しません」
 甲高い声で悲鳴を上げる自分を加奈子はいやらしいと思った。
 しかし、否定するつもりもない。
「勝手にしろ」
 直人は呆れて加奈子の隣に腰かけた。加奈子と顔を見合わせて同時に吹き出す。
 人気のない実験準備室で二人は予鈴が鳴り出すまで話し込んでいた。

「どうも」
 試薬を渡す加奈子に直人が礼を言う。
 加奈子の直人への第一印象は、一目惚れなどという生易しいものではなかった。
『これがあの女の自慢の彼氏か』
 極めて冷徹な事実確認であった。
「ねえ。次って神谷の数学だよね。あいつ加奈子に気があるんじゃない?」
「まさか。あの先生。三十は越えてるでしょ。気持ち悪いよ」
「ええ!あれで結構、人気があるんだよ。バレンタインにチョコをあげる子もいるし」
 加奈子はひとつ離れたテーブルにいる麻理子を眺める。
 自分の美しさに微塵の疑いも持っていない高慢な横顔だ。
「ちょっと渋いしさ」
 加奈子の目から見ても麻理子は完璧である。血肉で作られているとは信じ難い、
 傷ひとつない肌はチタン合金の骨格を合成樹脂で覆ったようだった。
「興味ない」
 なぜ麻理子の事がこれほどまでに気になるのか。加奈子は自分でも分析できない。
 高校に入学して以来、加奈子は容姿においては勿論、あらゆる面でことごとく
 麻理子と比べられてきた。
「ハードルが高過ぎなんだよ。加奈子は」
 表面上は、双方とも無視を決め込んでいる。
「ねえ。霧原君もそう思わない?」
「そんな事はどうでもいいからちゃんとやれよな。授業中だぞ」
「いやん。怒られちゃった」
 友人の声は、先刻とはトーンが一オクターブは違う。好意を持っている相手に対する
 女の自然な反応だ。
 自分でもやっているわけだが、まったく持って滑稽である。
 理性も本能も同じ目的、つまり生存と繁殖のために働くものだ。しかし、理性が本能を
 批判するのはなぜか。どういう役割を持っているのか加奈子は不思議である。
「加奈子」
 直人の声で加奈子は我に返った。
「どうした?」
「ごめん。これで全部済んでる。後は数値を合わせるだけかな?」
 訝しげな顔で直人が答える。
「範囲内だ」
「じゃあ、後はレポートだけ」
「それが面倒なんだよね」
 友人の言葉を聞き流しながら、加奈子は思う。
 麻理子でも泣く事があるだろうか。自分を飾るためではなく、心の底から絶望して
 涙を流すだろうか。
 その時こそ加奈子の中にある疑問がすべて解ける。そんな気がした。

「おまえのせいで恥を掻いたぞ」
 帰宅した直人は開口一番そう言った。
「加奈子は俺の事なんかなんとも思ってないんだ。おまえが変な気をまわすから
 無駄な出費だ」
 リビングの椅子に乱暴に鞄を置く。宿題をしていた直也は顔を上げて兄の顔を見た。
「加奈子さんがそう言ったの?で、それを信じたの?」
「本人が言うんだ。間違いない」
 直也はため息を吐かざるを得ない。他人の心の機微にこれほどまでに鈍感になれるのも
 一種の才能だ。
「なんだ?」
「もういいよ。勘違いしてすみませんでした」
 直也は席を立つ。
「直也?」
「エクレアがあるんだ。母さんが二人で食べなさいって」
 菓子折りを持って戻ってきた。
「あと、これ。食費をあげてなかったからって」
 茶封筒の中に紙幣が入っている。
 母親は掃除と洗濯に加えて、こういった気遣いをみせるが直人にじかに渡そうとは
 しなかった。その他のあらゆる面で直人は母親に避けられていると思う時がある。
 それでいて、直人を見る彼女は、母親とは思えないような不可思議な表情なのだ。
 まるで、直人を通して他人の面影を追っているような様子である。
「オアフのだよ」
 蓋を開けて直也が箱を差し出す。だが、直人は覗き込んだだけで手を出さなかった。
「俺は後でいい」
「そう?」
 直也は遠慮なく自分の分を口に運ぶ。
 弟が食べているのを見ると、とても美味しい食べ物なのではないかと思わされるが
 実際に味わうとそうでもない。直人はこれが昔から不思議で仕方がなかった。
「なあに?兄さんのはこっちだよ」
 菓子折りを押して寄越す直也に手を伸ばして口の端についているチョコレートを
 拭ってやる。
「兄さん?」
 親指についたチョコレートを舐めてみたが、やはり普段と同じ味だ。
「味覚の形成には経験が重要な要素だが、俺と直也はあまり差はないはずだよな。
 どうしてこうも嗜好に違いがでるんだ?」
 同一の両親からは現れるはずのない遺伝子座の決定的な差異か。
 麻理子の話が正しいのか。
 離婚争議の最中に父は一度だけ母を責めた。
『本当に二人とも俺の子供か?』
 あの時の母の顔は忘れられない。
「馬鹿馬鹿しい」
 自分で味覚は経験則によるものだと断じたではないか。自己矛盾にも程がある。
「なに言ってるの?意味がわかんないよ。それと今のだって、ぼくのなんだから
 勝手に食べないでよね!」
 直人は箱を押し返した。
「これ食べていいぞ」
「本当!なんで?お腹空いてないの?病気とか?」
「違う。俺はデリケートなんだ。精神的ストレスで食欲が失せた」
 鞄を掴んで立ち上がる。
「なにそれ?夕食は?」
「いらない。直也の好きにしろ」
 なぜか機嫌の悪い兄の背中を直也は見送った。

「うーん」
 ケータリングのメニューを一通りめくった結果、直也は宅配ピザをとることにした。
「すみません。ダブルチーズ。ペパロニは抜いてください。はい、お願いします」
 携帯の通話を切断する。メールに気付いて直也はキーを操作した。
「瑞樹ちゃんだ」
『直也君。今、なにをしてますか?』
 バレンタインのメッセージカードで遊園地に誘ってくれた女の子である。
「ええと。夕食のピザを頼みました、と」
 送信ボタンを押した。宿題を再開してしばらくすると、またメールが着信される。
『おいしそう。私はもう食べ終わりました』
 先週の土曜日に瑞樹の友人と直也の友人を混ぜた男女四人で映画を見に出かけた。
「なにを食べましたか?献立は?」
 瑞樹の父親は公務員で毎日判を押したように定刻に帰宅するという。
 母親は今時、珍しい専業主婦でおやつまで手作りしてくれるのだそうだ。
『普通です。なめこのお味噌汁とカジキの焼いたのとほうれん草のお浸し、あとポテト
 サラダと豆苗入りのだし巻き卵も食べました。だし巻き卵はお母さんの得意料理です』
「すごく美味しそうですね、と」
 直也は心からそう思った。
 最後に味噌汁を口にしたのがいつだったか容易には思い出せない。
「でも、全然、普通じゃないんだけど」
 それとも、自分の状況がおかしいのか。
 直也は食卓を眺めた。かつては、ここに家族がいた。しかし、今は直也だけである。
「仕方ないけどね」
 直也が触れることを許された小さな世界の中で甘いものは菓子だけだと思い知らされて
 いた。だから、菓子が好きなのである。
 携帯の着信履歴の中から瑞樹の番号を探す。
 回線が繋がると同時に直也は彼女の名前を呼んだ。
「瑞樹ちゃん」
『直也君!どうしたの?』
「急にかけてごめんね。今、大丈夫?」
『うん、平気。直也君からかけてくれたの初めてだよね?すごく嬉しい』
「そうだった?」
『そうだよ!だから、直也君は綾子ちゃんの方を気に入ったのかなって思ってた。
 綾子ちゃんは可愛いし』
「それはないよ」
 母子家庭の綾子では、直也の理想にとって適当でない。幸せな家庭の虚像を求める
 彼の好みに合わないのだ。
『本当?じゃあ、今度は二人で出かける?』
「いいよ。どこに行く?」
 愛想良く瑞樹に応じながら手元では宿題を仕上げる。
『遊園地に行きたい』
 直也は映画館で隣に座っていた瑞樹のことを考えた。長い髪に包まれた顔は頬も唇も
 柔らかそうで傍に寄ると菓子のような甘い匂いがした。
『瑞樹ね。昨日、春物のワンピースを買ってもらったの』
 女の子は甘い味がするのではないかと思った。
 それで、直人は菓子を食べる必要がないのだ。そうに違いない。
「リボン」
『え?』
「一緒に出かける時、リボンをつけてきてくれない?」
『いいけど。直也君はリボンをしてる子が好きなの?』
 菓子は包装紙に包まれて、リボンがかけられているものだ。
「うん。大好き」
 直也は笑顔で答えた。



END
スポンサーサイト
EDIT  |  20:48 |  二次創作  | CM(3) | Top↑

Comment

●直也のお菓子好きに

そんな理由があったとは…
何だかいじらしくてほろりとさせられました。
とか言いつつ、「リボンつけてきて」の台詞には
思わず笑っちゃったり(^^;)
あと、直人の相変わらずの理科男的朴念仁っぷりには
微苦笑しつつ、ま、それが兄の魅力でもあるんだから、
これでいいのだ!と。←バカボンパパ?
しかし直人は直人で悩んでますね(麻理子のせいで?)
でも、本当のところ、どうなんでしょう、2人は異父兄弟なんでしょうか、
それから直也の幼い恋の行方は?
いろいろと気になります、いつかまた続きを書いてもらわないと、
モヤッとボールに埋まってしまいそう…←某TV局の回し者?
…や、単純にさっきまであの番組を見てたってだけッス(^^;)
最後になってしまいましたが、いや、chocoさん、こちらこそ!
今企画がこんなにも盛り上がったのは、chocoさんの
「早い、巧い、読みやすい!」投稿作品のお陰と思います、多謝v
siko | 2008.03.22(土) 21:21 | URL | コメント編集

●遅くてすみません!

UP&感想いただきましてありがとうございました!(遅過ぎてすみません!)
そんなに言っていただけるならホワイトデー編を書かなきゃですね。でも、大丈夫かな?
展開はよくある感じだと思いますので、ご期待に応えられるかどうか。
今回、ラブコメと頑張ってみましたが、そういう作品には洒脱さというものが必要なのだとわかりました。(猛省)
当たり前ですが、高橋留美子は偉大でした。
拙作の見どころは霧原兄弟のメタボ一直線の食生活ですかね。
瑞樹ちゃんに早々に横入りしてもらわないと直也の体脂肪率がヤバいです。

しかし、よくこんなに書きましたよね。自分でビックリです。
作文も褒められたことがないというのに。
やっぱりsikoさん、パタさん他の方々の褒め上手のお陰ですね。感謝です!(最敬礼!)

ところで、全然関係ないヤツを入れておきます。
こんなの書いてるから返事が遅いんですね。(反省)
それでは、素敵編集よろしくお願いします。
くだらない事じゃ誰にも負けない。せっかくのりゅぅさんの看板が台無し。
そんな感じに仕上がっております。(涙)
choco | 2008.04.11(金) 20:48 | URL | コメント編集

●管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 | 2008.04.11(金) 20:52 |  | コメント編集

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示
 
 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。